夢幻なる縁
□1章 二代目四神の神子
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「ねぇ梓、もしスマホ持ってたら一晩かしてくれない?」
「はい、持ってます。でももう電池がないので電源が付かないですよ」
帰る梓達を門まで見送りフッと思い聞けば、バックからスマホを取りだし、少しも疑うことなく差し出してくれる。
これが私見たいな気の知れた同姓だけなら良いんだけれど、梓は素直すぎるためいろいろ心配なんだよね?
「私を誰だと思ってるの? 少し改良して無線で使えるようにするの。明日ソーラーバッテリーも一緒に渡すから」
「そんなことが出来るんですか? さすが帆波先輩ですね?」
ちょっと得意気になり胸を張りながら理由を話せば、いつものように梓を感心して尊敬の眼差しを向けられる。
この時代に携帯など存在するはずもなく、もちろん電波もない。電気はあっても使い物にならず。
それで私が開発したのは半径五十キロは可能な小型無線と高性能ソーラーバッテリー。一日外に置いとけば、五時間ぐらいの通話は可能。
今はまだ異世界の部品がないと出来ないけれど、いつかすべてこの世界の部品で完成させたい。
「……さすが21世紀の女性エジソン……」
「え、なんか言いました?」
「いいや何も。空耳だろう?」
「そうですか」
確かに村雨さんの方から聞こえた異世界での異名。
女性エジソンだけならまだしも、21世紀が付くとなると偶然ではなくなる。
村雨さんも梓と同じ異世界人?
八葉が異世界人って言うことは結構合ったらしいから珍しくはないけれど、それじゃぁなんではぐらかす必要があるんだろう?
秘密にしている?
なんで?
考えれば考えるほど余計分からなくなる。
「それじゃぁ、帆波先輩、さようなら。 明日から宜しくお願いします」
「え、あこちらこそ」
と言って梓達は帰っていく。
梓は今千代と九段さんと同じ旧軍邸に住んでいるようで、今度女同士でパジャマパーティーをする約束をしたんだ。
私はいないけれど二人の恋ばなを聞いてみたい。好きな人はいないとしてもあんなイケメンに囲まれていたら、気になる人ぐらいはいるはずだ。
私と同じぐらい恋愛に疎い梓だったのに、先を越されたと思うと寂しいかも?
うちでやる時はおばあちゃんも誘ってあげよう。
「私も恋愛したいな」
そう言わずにはいられなくって空を見ながら呟いてみると、嫌な気配が勢いよく私に近づいてくる。
「なら恋愛しろ。と言うか結婚しなさい」
「眞佐之お兄ちゃん。何藪から棒に?」
言うまでもなくどこからともなく眞佐之お兄ちゃんが出現。いつも以上に必死で結構怖い。
一体なんなの?
「帆波、頼む。もう二度と縁談知ろなんて言わないから、今回だけしてくれ」
「でもそれって結婚前提の縁談だからじゃないの?」
「……ギクッ。そそんなことないぞ? 相手から断られる可能性がないわけでもない。……あったら困るが……」
「……・。おじいちゃんに殺されても知らないよ」
いつもと同じ縁談の話でうまいことを言ってその気にさせようとするけれど、そんな怪しさ大爆発の甘い話を信じる程単純ではない。案の定すぐに図星を付かれ、冷や汗たっぷりの挙動不審になりつつも否定する。それはまさに肯定してるのと同じで、深いため息を付き真実を言い捨て家の中へ。
隠し事が下手な単細胞な兄貴で助かった。
「おじいちゃん、塩持ってきて」
「眞佐之が来たんだね? はい、塩」
玄関にはおじいちゃんがいてお願いするとすぐに塩が出てくる。用意が良い。
戸を開け塩を巻くと眞佐之お兄ちゃんは良いとしてお父さんまで立派な塩漬けとなった。 その後にはお母さんと清人お兄ちゃんまでいる。
家族全員で私を説得?
まさか私がいない間に事業が失敗して、私は金持ちに売り飛ばされるとか?
嫌な展開しか思い浮かず怖くなり、おじいちゃんに助けを求め背後に隠れる。
「美岬までどうしたの? まさか和人くんが事業に失敗でもした? だとしたら今すぐ離縁して戻ってきなさい」
「そうね。もしそうなったら離縁するけれど、今回はそうじゃないから安心してよ」
未だにお父さんのことを快く思ってなく同情の余地がないぐらい決めつけ強制すると、お母さんは笑って薄情な答えを返しながら否定する。
我が母とはそう言う人だ。
でも最悪事態は免れたけれど、それでもいつもとは違う。
いつもなら眞佐之お兄ちゃんだけが騒ぐ。