夢幻なる縁
□1章 二代目四神の神子
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一通りの紹介が終わりよく漫画やドラマのような後は若い人達でと言うことになり、二人で散歩をすることになる。
紹介だけだと才能ある優秀な若手実業家で、慈善事業にも積極的取り組んでいる。
きっと藤堂コンシェルンは更に発展して行って将来も安泰だろう。そう言うところだけ見れば、これ以上もない良い縁談。
「君も大変だね」
「え、まぁ……」
「悪いけど僕には結婚はまったく考えてないんだよ? だからもしよければしばらく僕の婚約者の振りをしてくれないかな?」
藤堂さんから話を切り出されたと思えばなんとも答えづらい答えで曖昧に相づちを打つと、どうやら彼もこの縁談には気乗りがしないらしくそんな提案をされてしまう。
一見無茶苦茶なお願いに聞こえるけれど、冷静に考えれば案外お互いに有益な提案かもしれない。
婚約者さえが入ればもう眞佐之お兄ちゃんにうるさく言われないですむ。
……おじいちゃんは泣くけど。
「いいですね。 もう兄からお縁談しろと言われなくなります」
「そでしょ? 僕も婚約者がいれば父は文句を言われなくなる」
「はい。なら交渉成立ですね」
「ああ、よろしく。帆波」
「こちらこそよろしくお願いいたします。尚哉さん」
快くその提案に乗り二人して似たようなことを言い合い、特に言わなくても不自然ではない呼び方に返え握手する。
初めて触れ合ったはずなのに、私はこの温もりを知っている。冷たいけれど嫌じゃない。それに名前を呼ばれた瞬間心臓が飛びはね高鳴るけれど、ほっ懲りと暖かくもなり心地良い。
「手が冷たい人は心が暖かい優しい人って良くいいますよね?」
「!! ……だったら君は冷たい人なんだね」
「え?」
つい言わなくても良い情報を言ってしまうとほんの一瞬彼は動揺を見せるけれど、すぐに元に戻り小馬鹿にされたような言い方で交わされる。
どこかで聞いたことがある台詞。
「帆波って面白い子だよね? あっそうだ。いくら偽りでも婚約者なんだから、たまにはデートぐらいしようよ」
「え、あそうですよね? たまになら……」
「話が分かる子で助かるよ。なら浅草復興祭においでよ。僕が案内してあげる」
すっかり尚哉さんのペースにハマり、戸惑いつつも嫌ではないので話を合わせる。
尚哉さんの機嫌が良くなり子供のような笑顔を見せるから、私は目が離せなくなる。
私、本当にどうしちゃったんだろう?
こないだ初めて会ったばかりなのに、前からよく知っている気がする。
私の傍にいた大切な人。
「あの尚哉さん、おかしなこと聞いても良いですか?」
「いいよ。僕で答えられることならなんでも聞いて」
「私達どこかで会ったことありますか?」
「!!」
私の率直な質問に尚哉さんは再び動揺と今度は絶句する。
「尚哉さん?」
「あ、ごめんごめん。あまりにも君が突拍子もない愉快なことを言うから、面白くってね。僕と君はこないだが初対面だよ」
「そうですよね。私の方こそ変なこと言ってすみませんでした」
私の心配をよそに尚哉さんが復活した途端に、涙を浮かべ爆笑され否定される。
おかしな問いだとは自覚してたけれどここまでとは思ってなく唖然としてしまい、反射的に謝ってしまい縁談は無事? に終了した。