夢幻なる縁

□1章 二代目四神の神子
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「九段。さっきから静かだけど、どうかしたの?」
「フム。我には恋愛事は良くわからぬから、黙って聞いていただけだ」
「ですよね? 私も恋愛事にはあまり興味がないんです」
「まことか? それなら甘味の話をしないか? 帆波は何が好きか?」

 さっきから話に加わらない九段さんをおかしいと思ったのか千代が話しかけると、随分可愛らしい返答が返ってきた。話題が変わるチャンスにすかざず話を合わせる。
 すると九段さんの表情がパッと明るくなり私の傍に寄ってきて、なんの脈略もなく甘味の話題へとなる。その姿はまるで大型犬の子犬のようで、可愛らしい。
 恋愛よりそう言う話題の方が私も好きだな。

「もう九段ったらすぐそれなんだから。帆波、ごめんね」
「いいよ。私も甘味は大好きなんだ。私はおばあちゃんの安道名津が一番好き」
「凪の安道名津なら我も食べたことがある。確かにあれはどこか懐かしく美味だった。チョコ味やクリーム味も捨てがたい」

 やっぱり千代は九段さんの保護者らしくブレーキを掛けるけれど、迷惑なんてちっとも思ってないからそのまま話を続け盛り上がる。

 安道名津は名前通り異世界で言うアンドーナツのことで、幕末に脚気が流行したことがきっかけで、とある医師が開発した立派な薬。
 当時は甘い物は高級品だったらしく、安道名津はたちまち庶民に大流行。
 なんでも将軍様の正妻まで好んでいたとか。
 それでおばあちゃんは異世界でのおじいちゃんの死因が脚気だと知っていたから、作り方を教わり頻繁に作って食べていたそうだ。
 だからおばあちゃんの安道名津は家族全員大好き。
 九段さんも好きって言ってくれて嬉しいな。

「最新お菓子作りの先生が出来たと言って喜んでます。今度は抹茶クリーム安道名津を作るみたいです」
「あ、それはきっとルードのことだよ。良く帯刀と一緒に我が家に来るうち仲良くなったらしいよ。凪も俺達が鬼だと知っても、だからなに? 鬼だって同じ人間じゃない。イヤ別に宇宙人であっても問題ないけど。と涼しげに言われてしまったよ。あの時のルードの反応は面白かったね」
「おばあちゃんらしいですね? そうかおばあちゃんとルードくんが」

 一瞬いくらおばあちゃんでも年下の先生はおかしいと思ったけれど、聞いているうちにそう言うのもありな気がした。

 私が鬼でも外人でも神様でも関係ないと思えるのは、確実におばあちゃんとおじいちゃんのおかげ。
 でも納得が出来たからこそ、ルードくんの安否が心配かも?
 おじいちゃん、嫉妬しないよね?
 ……相手は孫より年下の少年なんだから、さすがにそこは大丈夫か。

「だったらその時は是非シベリアにも試していただきたいです」
「私はシュークリームもいいと思う」
「どれも美味しそうね」

 シベリアが大好きな秋兄と梓も黙っては入られず、テーション上げて注文する。
 千代もこれには想像だけでも目を輝かす。

「帆波、ダリウス、その時は是非我が味見係をすると頼んでくれぬか?」

 すごく必死に断れば先祖末裔まで祟られそうな勢いで頼む九段さん。

「良いですよ。でもその時はみんなで試食会をしましょう」

 我ながらナイスアイデアを提案する。
 ダリウスさんは分からないけれど、それ以外の人達は味見係をやりたいはず。

「それは良いわね? 九段も自分のことばかり考えないで、ちゃんと他人のことも考えなさい」
「フム。心得ておく」

甘い物は老若男女問わずみんなを幸せにしてくれる魔法の食べ物。
なんだか私まで楽しくなってくる。



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