夢幻なる縁

□1章 二代目四神の神子
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「二人は相変わらず勉強熱心ね。私にはよく分からない難しいことばかりだから、話についていけなくて困ってたの」
「夕凪はなんでも私任せだからね? まぁそうさせたのは私だけどね」

 三人分のサンドイッチと紅茶を持ってきたおばあちゃんは、そう言いながらテーブルに置きおじいちゃんの隣に座った。それをおじいちゃんは満足げにおばあちゃんの頭をなぜる。

 確かにおじいちゃんは厳しい時もあるけれど、おばあちゃんにも甘い。
 でもおばあちゃんだってそれなりに現状を理解していて、ちゃんと自分の意見を持っている。元異世界人だけあって考え方もここの人とは違う。

「帯刀さんさまさまです。そうそう眞佐之とお父さんが来るって。なんか帆波に大事な話があるんだって」
「眞佐之達が? しかも帆波に大事な話? 悪い予感しかしないんだけど」

 途端におじいちゃんの顔が曇った。私も少なからずそう思い、顔がおもいっきり引きつり頭痛がしてきた。

 眞佐之とは下の兄のことで、私とは九歳も歳が離れている。
 両親は娘を理解してくれている理想的な親なんだけれども、眞佐之お兄ちゃんが口うるさい今時の亭主関白主義。女性は男性の一歩後に下がって旦那を建て、家庭を守るのが当然だと思っている。
 だから眞佐之お兄ちゃんの奥さんはそう言う奥ゆかしい人。

 私が科学者になりたいと言ったら無茶苦茶に怒り、あと少しで規律正しい女学校に入れさせられそうだった。
 それ以来顔を合わせれば縁談話になったため、私はここに逃げてきてなるべく一人では実家に帰らないことにしている。
 眞佐之お兄ちゃんはおばあちゃんとおじいちゃんに頭が上がらないから一緒だと何も言われない。
 
「おばあちゃん。もし縁談話だったら、追い出して」
「塩も大量に用意しときなさい。まったく眞佐之は何を考えているんだ? 本当に私の孫?」
「帯刀さんそう言う言い方は良くないですよ。きっと眞佐之は眞佐之なりに帆波の事をちゃんと考えてるんだと思います。お金持ちと秀才は絶対条件だろうし、後はイケメンで優しい人なら良いんじゃない?」
『そう言う問題じゃない』

 縁談なんか絶対反対でもう反発しているのに、ミーハーなおばあちゃんだけが条件に付き賛成の模様で眞佐之お兄ちゃんの肩を持つ。
 それでも私達に激しく避難され、小さくなり黙ってしまう。

 おばあちゃんは金持ちで優しい秀才イケメンなら……おじいちゃんその者か。
 だけど私は縁談する事がイヤなんだから、どんなに条件がよくても耳を貸さない。

「おじいちゃん、おばあちゃんなんかほっといて、話を始めよう?」
「そうだね? 夕凪は四神達と大人しく遊んでなさい」
「……はい」

 さらなる冷たくあしらいとどめを刺すと、涙を潤ませ部屋からトボトボと出ていく。
 その姿は親に叱られた子供のようだった。



「少し言い過ぎたかな?」
「本当に夕凪はいくつになっても、思い立ったら吉日で困った妻だよ。後で甘やかすだけ甘やかすから、帆波は気にしなくてもいい」

 私に落ち目はなくても多少罪悪感が生まれる中、おじいちゃんは呆れつつも、相変わらずのラブラブぶりを見せつける。

 そう言うことを孫に平気で言うのもどうかと思うけれど、ある意味いつまでもラブラブ夫婦でいられるのは羨ましい。
 私も結婚するのなら、一生愛し合える人がいいな。

「おじいちゃんは幸せだよね? この歳になってもおばあちゃんと一緒に入られて」
「私が夕凪よりも先に死ぬわけいかないでしょ? あんな問題児私以外の誰が面倒見るの?」

 求めていた答えではなく最強に見下す答えが返ってくる。
 たまにおじいちゃんのおばあちゃんへの愛を疑ってしまう。

「ねぇおじいちゃん、本当におばあちゃんを愛してるの? それとももう六十年も一緒にいるからそう言う感情はなかったりするの?」
「愛してるに決まってるでしょ? 私にとって夕凪は何があろうとも傍にいる特別で大切な存在」
「そうだね? おばあちゃんは本当に幸福者だね。もちろんそう断言できるおじいちゃんも」

 少しでも疑ってしまったことが馬鹿らしく思えてくるぐらいの熱々の解答に、普通なら良い歳した老人がと思うかもしれないけれど私は嬉しくて羨ましくも思える。
 六十年経っても二人の愛はまったく色褪せることがない。
 喧嘩したってすぐに仲直りしてるんだから、離婚の話にまでなったことはないんだろうな?
 そんな二人を見ていれば誰だって、理想の恋愛と結婚になってしまう。
 どうやったらそんな恋愛が、私にも出来るのかな?




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