夢幻なる縁

□本編前
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 気がつけばそこは知らない場所だった。
町だと思うのだけど、崩壊されていて悲惨なことになっている。
 まるで空爆か何かがあってそれに巻き込まれ私は気を失って・・・と言うことは戦中って事?
 戦争・・・そんなのしてたっけぇ?
 突然攻撃された。
 ・・・・・・・。

「よかった。生きてる人がいるわ」
「本当だ。君大丈夫か?」

 背後から女性と男性の安堵した声が聞こえる。
 私が生きている事を喜んでいるんだと思う。

「え、はい」
「!? 姫ちゃん?」
「?」

 私も誰かがいたことが嬉しくて警戒することなく振り向き返事をすれば、女性は驚き私を知っているのか馴染みがあるようなないような際どい名を呼ぶ。 
 しかし女性と男性の顔に身に覚えがなく、そもそも私の名前が・・・・・・・。
 ・・・あれ? 

 ここでようやく私は重大な事実に気づくけれど、それは素直に受け止められずもう一度良く考え直す。
 でもそれは余計に立証されるだけで、血の気がさっと引く。

「姫ちゃん、どうかしたの?」
「私、自分の名前を覚えない見たいです」
『!?』
「記憶は・・・それなりにあるんですが・・・記憶にある人の顔に靄が掛かってて分からない・・・」

 私の異変に気づき心配してくれる二人に、今気づいた嘘みたい本当のことをゆっくりと説明する。

 そう。私は記憶喪失。
 しかも冷静に考えれば人の顔に霧が掛かっていたら怖いけれど、是かそれが普通に思えるからそんなに怖くない。

「あなたの名前は・・・姫よ。私はあなたの姉の亜理紗。こちらは星の一族の恭介。星の一族のことは覚えてる?」
「すみません。覚えてないです。だけど星の一族は知ってます。世界の危機に直面した時に龍神の神子を召喚して、いろいろお世話をしたりする一族ですよね?」

 女の人は優しく私の名前と自分の正体を教えてくれるけれど、残念ながらまったく記憶がなく首を横に振る。
 だけど星の一族はちゃんと覚えていて、その記憶が正しいか確認する。
 
 本当なら家族のことを忘れてはいけないのに、私ってばひどいな。

「そう。私は黒龍の神子で今は恭介とともにしてるの」
「確かに今は世界の危機・・・ひょっとして私は白龍の神子だから召喚されたとか?」
「違うわ。姫ちゃんは四神の神子候補でしょ?」
「? 四神の神子候補?」

 教えられて破壊された町並みの説明が付きそれによって導き出された一つの可能性を口にすると不正解だったらしく、私に近づき恭介さんに聞こえないぐらいの小声で耳元で覚えのない役職を囁かれ戸惑う。

 四神の神子候補?
 龍神の神子は知っているけれど、四神の神子なんて知らない。
 それとも忘れている?

「覚えてないんなら良いわ。それより姫ちゃんが覚えてることを話してくれる?」
「はい」
「だったらゆっくり話せる場所に移動しよう。亜理紗の妹なら、ここは未来の時空なんだからね?」
「!!」

 話は一気に飛びまくり驚いたけれど、心の奥底で安堵する私がいた。
 私の世界が突然戦争を始めたからじゃなかったから。

 


「そう。姫ちゃんは科学者の卵なんだ。恭介の弟と話が合うかも知れないわね」

 地下シェルターに案内された私は二人に覚えている限りのことを話した。

 私は女子校に通っていて科学部の部長で、将来の夢は科学者のこと。
 今は祖父母と暮らしていて猫鳥ワニ?蛇?・・・を飼っているのこと。
 話していてやっぱりお姉ちゃんのことは覚えていなかったけれど、いたと言う記憶だけは確かに残っていることに気づいた。
 だからきっと亜理紗さんは私のお姉ちゃんに間違えはないだろう?

 お姉ちゃんはどこか懐かしそうに熱心に聞いてくれて、そう感想を言い微笑む。

「恭介さんの弟って科学者なんですか?」
「そうだよ。素直でとても優秀な可愛い弟だよ。そのうち合わせてあげる」
「はい、是非」

 恭介さんもお姉ちゃんと同じで弟の話をしている時はますます優しい顔になっていて、大好きなんだなと言うのがよく分かった。
 
 科学者に興味ある以上に、可愛い弟って言うことに興味をそそられる。
 どんなに可愛い子なだろうか?

 可愛い子好きの私は思わずにやついてしまい期待を膨らますけれど、それは言葉のあやだと気づいたのはそう遠くない未来。

「それにしてもあの幼くて可愛い姫ちゃんが、すっかり綺麗な女性に成長してるんだから不思議ね?」
「そそんなことないよ。私よりお姉ちゃんの方がすごく綺麗だよ。ね、恭介さん?」
「え?あ、私は少し席を外そう」

 何を思ったのか綺麗なお姉ちゃんから意味深なこととと綺麗だと言われ、焦りまくる私は恭介さんを巻き込むと顔を真っ赤に染め逃げてしまう。

 恭介さんとはまだ知り合って間もないけれど、とても優しくて頼りになる人なんだと思う。だから彼女であるお姉ちゃんがちょっとうらやましい。
 

「恭介さんって可愛いね?」
「ええ、そうね。・・・ねぇ姫ちゃん。あなたが記憶を失ってここに召喚されたのかは分からないけれど、きっとそれには何か理由があると思うの」
「理由。私もお姉ちゃんと恭介さんと一緒にこの世界を救うとか?」
「それはどうかしら?」
「うん」

 深刻に話すお姉ちゃんと違って、私は軽く答えを返す。
 それは戦争の恐ろしさを体験してないから言えてることで、体験しているお姉ちゃんはたちまち不安そうな表情に変わったのだった。






 それから一ヶ月ぐらい経ったある日のこと。

「姫ちゃん、本当に良いの?」

 いつものように研究室で武器の開発をしていると、お姉ちゃんがやってくるなりそう問われる。
 きっと上から聞いたんだろう。

 戦争は考えていたよりもずっと恐ろしい物だった。
 毎日のように一緒に暮らす人が死んでいき、私にも分かる完全な負け戦。
 さっさと白旗を揚げて降伏すればいいのに、意地になっているのかそれをする気配はまったくなし。

 最初の頃はお姉ちゃん達と戦地に同行していたんだけれど私にはあまり役に立つことはなく、逆武器開発の才能を買われ今では裏方に回りシェルター内で過ごす日々が続いている。
 しかしだんだん戦争は酷くなっているようで人手不足のなり、私も再び同行することを志願した。
 本当は怖くて安全な裏方でいたいけれど、このままではそう遠くない全滅。
 知り合いが死んでいくのを黙ってみていたくない。
 ましては戦前に出ているお姉ちゃんが死んでしまったら、私は本当に独りぼっちになってしまう。記憶喪失のまま誰も私を知らない世界で生きていくなんて残酷すぎる。

「うん。私じゃあんまり役に立たないと思うけれど、今回は沢山の武器を作ったからね?早く戦争を終わらして、お姉ちゃんの花嫁姿を見たいし恭介さんをお義兄ちゃんって呼びたいから」
「姫ちゃんったら気が早いわよ」

 こう言う時だからこそ私は明るく答えお馬鹿な発言をして、緊張感だっぷりのお姉ちゃんを和ませる。

「そんなことないよ。グズグズしてたら私が奪っちゃうよ」
「え? 姫ちゃんも恭介のこと好きなの?」
「冗談。恭介さんのことは兄として大好きなだけだからね。本当にお姉ちゃんって可愛いんだから」
「姫ちゃん!! もう知らない」

 冗談をすぐに真に受けてしまうのは相変わらず複雑な表情を見せるけれど、真相をバラした途端頬を膨らませ部屋から出て行く。
 こんな可愛らしい人なのに周囲からは聖女のように崇められていて、お姉ちゃんも優しくて真面目だから期待に応えようと日々検討していた。 
 たまに余裕が少しもなさそうで心配だから、私はこうやって冗談を言ってゆとりを作っている。私は研究しかしてないから、心のゆとりはまだまだある。
 
 まぁ確かにお姉ちゃんがいなかったら好きになっていたかも知れないけれど、恭介さんとお姉ちゃんはお似合いのカップルなんだからそれ奪うなんてとんでもない。義妹になれるだけで私は満足。




「こら姫。また亜理紗をからかってたな」
「まぁね。だってからかうと楽しいんだもん」
「まったく君って子は。今話しても良いだろうか?」
「私と? まさか堂々と二股の申し出とか?」
「そんなわけないだろう? これから先の大切な話だよ」

 次に呆れきった恭介さんがやって来て私も変わらず冗談を言うけれど、軽くあしらわれおでこに軽いデコピンを受ける。
 最初の頃は私の冗談をお姉ちゃん同様真に受けていたのに、いつの間にか真意を把握したかのように受け流されるようになった。
 だから恭介さんにはおちゃらける必要もなく、真面目に話を聞くことにした。
 
「なんですか?」
「実は尚哉の助手として働いて欲しいんだ」
「尚哉さんって科学者の弟ですよね?」
「ああ。尚哉は優秀だからそっち方面で解決させる方法を探してもらっている。そして君も尚哉に劣らず優秀な上、他人を和ませる才能がある。尚哉の良いパートナーになると思うんだ」
「それって喜んで良いんですか? もし私が足手まといのようなら、今まで通り武器開発しますよ」

 恭介さんの頼みと言えどもあまりにも急で自分勝手な頼みに、素直にはなれずショックを受ける。
 
 私はそこまで足手まといなんだね?
 だけどそれならはっきりと“お荷物でしかないから下がっていて”言われた方が良い。
 遠回しの言い方は嫌いだ。

「そうじゃない。その方が得策だと占いに出たし、尚哉はメンタル面が弱い部分もあるから、君のような存在が必要だと私が思ったんだ」

 しかしそれは私の深読みし過ぎだったらしく恭介さんにはちゃんとした考えがあり、不安がる私の頭をなぜながら説得力ある言葉で理由を教えてくれる。
 聞いて私も同意出来た。

「分かりました。尚哉さんの助手になって、少しでも早くこの国が平和になるよう頑張ります」
「ありがとう。私も亜理紗も頑張るよ」
「はい。恭介さん、お姉ちゃんのことをよろしくお願いします」

 たった一ヶ月前にやって来た私が言うべきことではないと思った物の、そう言わずにはいられなかった。

 お姉ちゃんのことはまだ何も思い出せなくても、この世界ではたった一人の家族だから大切な人。
 それに思い出せなかったら、これから新しい思い出を作れば良いだけのこと。

 戦争が終わったらお姉ちゃんと恭介さんの三人でいろんな楽しい思い出を作っていきたいな。
 それとも二人は私が邪魔だったりしてね。

「ああ、任してくれよ。約束だ」
「はい、約束」

小指を絡ませ、ゆびきりを交わす。




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