夢幻なる縁

□本編前
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「どうしよう。これ?」

 自室に戻り机の上にある包みを見ながら、深いため息をつき椅子に座る。
 博士宛のクリスマスプレゼント。
 感謝のお礼と言えば私の心を知られず渡せると思ったんだけれど、あんなことを言った後ではさすがに渡せられず完全にタイミングを失ってしまった。

 でも言ったことに後悔はしていない。
 間違った考え方を指摘するのは当然の事。
 それに博士だって本当は萬にも心があることぐらい分かっているはず。
 だからわざとあんな冷たい態度を取り続けている。
 そうじゃないと私は最低な人間を好きなってしまった。
 つまり私も実は最低な人間。

 ………いやだなそれ。



「大切な話があるから、出てきてくれる?」

 恐ろしい現実を予想してしまい凹んでいると、ドアをノックされ博士が私を呼ぶ。

 大切な話ってなんだろう?
 まさか解雇宣言?

「なんですか?」
「来週新年会があるらしく、君も僕と一緒に参加して欲しいと言われてね」
「了解しました」

 嫌な予感がしつつドアを開け内容を聞くけば、意外にも今言わなくてもよさそうな用件だった。

 そんなこと明日に言えば良いのに、どうしてわざわざ私の部屋まで来たんだろうか?
 博士の謎過ぎる発言に違和感を感じていると、なぜか私をまじまじと見た後深いため息をつく。
 見られて恥ずかしい以上に、やっぱり謎の行動が気になる。

「本当に君って女っ気の一つもないよね? 僕のビジネスパートナーなんだから、少しは女性らしくしてくれないと僕が困るんだよ」
「は、もしかして私に喧嘩売ってますよね?」

 耳を疑うような酷すぎる突拍子のない台詞に、ショックよりも再び怒りが芽生え笑顔が引きつる。

 確かに私はお洒落なんて興味がないから、いつも素っぴんでラフな服装。
 でも一応は最低限の身だしなみは気を付けているつもりだ。
 それなのにどうしてそう言う

「……男の僕にはこんな物必要ないものだから、君にあげる。これから何があっても身につけてるんだよ。君は着飾ればほんの少しだけまともになるんだからね? じゃぁおやすみ」

 と言いながらとある宝石ブランドのバッグを渡され、私の言葉を聞かずに自室へと戻っていく。

 あの博士が気のせいなのか、頬が微かに染まっていた気がする。
 まさか博士はこれを渡すのが目的で素直じゃないから、あんな言い方しかできなかっただけ?
 もう博士は相変わらず天の邪鬼だな。

 真相がなんとなくわかった途端、怒りは水に流れ微笑ましくなる。

 だから私は博士から目を離せないんだね。

「博士、メリークリスマス」

 明日プレゼントのお礼と言って、お返しと称してプレゼントを渡そう。


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