夢幻なる縁
□本編前
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幼い頃からクリスマスは大好きだった。
おじいちゃん家には立派なもみの木があって、おばあちゃんと誰か達で 綺麗に飾りつけをしていた。
サンクロースと言う家族が沢山のプレゼントをくれて、毎日がクリスマスが良いと思った程。
だから去年はお姉ちゃん達が死んですぐだったから出来なかったけれど、今年は萬の初めての誕生日と言うこともありどうしてもやりたいと思っている。
だけど萬を自動人形としか思っていなく感情を持たせることに反対する博士に
萬の誕生日を祝う。
と言ったら間違えなく激しい口論となるだろう。
それですでに何十回していて、全敗で泣かされていた。
二人だけで外で誕生日を祝えばいいかもしれないけれど、クリスマスだから博士とも過ごしたい。
それとも博士はクリスマスは誰かと過ごす?
「明日は私用があるから休みにしてあげる。嬉しいでしょ?」
「え、私用ってなんですか?」
「クリスマスに私用と言えば、察しがつくよね?」
「え、あっ………」
本日も絶賛深夜まで研究を励んでいると、ご機嫌な博士がかって言ったことがない台詞を吐く。
あまりのことに驚きすぎて思わず惚けた質問をしてしまうと、怒られなかったものの遠回しにバカにされてしまった。
クリスマスに私用って言ったらデートに決まってる。
お姉ちゃんが本命であっても、博士は女遊びをする人。
そう言うのは分かっているから、それについてはもうスルーする。
博士のことは好きだけれど、遊ばれるのは勘弁して欲しい。
「分かったみたいだね? そんなわけだから明日は帰りが遅くなるから、君も思う存分羽を伸ばして来てよ。ああれ君に好意を抱いてた加賀は?」
「加賀博士とはあれから話してません。なぜか私の顔を見たら逃げて行きます」
「あ、あ可愛そうに。嫌われたんだ」
久しぶりにその名を聞き忘れたとはいえ、そんなこと言われると少しショックを受ける。
なぜ私は嫌われたんだろう?
私無意識のうちに、嫌われることしたかな?
でもあの時確か
「博士、私達は終戦するまで恋愛禁止とか言ってませんでしたっけぇ?」
「それは本気の恋。仕事に差し支えない遊びなら構わないし、たまには息抜きも必要じゃない?」
「……おやすみなさい」
「ああ。おやすみ。そうそう外は物騒だから護衛に萬を連れて行くんだよ」
この前とはまったく異なるただの屁理屈にこれ以上何を言っても無駄だと判断し自分の部屋に向かえば、滅多にしない私の心配をしてくれ不気味でしかない笑顔で見送られる。
明日デートする相手はお気の毒だな。
それとも相手も遊びの恋愛だからお互い様?
まぁ私にはまってく関係ないから、博士の言うとおり萬と出掛けて誕生日を祝おう。
「あの野郎、計ったな」
「シスター?」
博士の性格の悪さを改めて思いしり、怒りを覚え拳に力が入る。
今すぐぶん殴りたい。
朝起きて萬を捜して研究室に行くと普段通り黙々と資料整理をしていたので、
今日はお休みだから、遊びに行こう。
と誘うと明日までに資料整理をしろと博士から命じられたと言う。
どんなものかと見てみると萬であっても深夜まで掛かる量だった。
あの博士の不気味な笑みの正体は、こう言う意味だったんだね?
つまり私にも休ませる気なんて最初っからない。
「萬、そんなのほったらかして遊びに行くよ」
「え、しかしそんなことすれば博士に叱られてしまいます」
「二人で怒られれば良いの。たまには息抜きも必要だって言ったのは博士なんだからね?」
これ以上もないぐらい頭が来ている私は、萬の腕をつかみ遊びに行くことを強制する。
嫌がる萬だけれど、そんなの無視。
博士に逆らうことも教えないと。
「でしたら私には構わずシスターだけ遊びに行ってください。これは私に与えられた」
「萬、それ私に喧嘩売ってる?」
「滅相もございません」
「今日はクリスマス。一人で遊びに行くのは、人生の負け組ってことなの」
「それは申し訳ございません」
きっと今の私は何よりも恐ろしい殺気と表情を融合しているのか、萬は完全に怯えいつも以上に小さくなり平謝りに近い行動をする。
それはそれで余計ムカつく。
シスターは負け組では……そんな気を利いたこと言えるはずないか。
「萬、今日はあなたの誕生日なの。だから今日だけは心に赴く自分がやりたいことをやればいいの」
「自分のやりたい? でしたらやはり博士の言いつけを守ります」
「………」
我が家での当たり前なことを教えたのに、萬は考えることもなく博士の言いつけを守る選択をしてしまう。
博士の洗脳。
いつかその洗脳を解く方法を見つけたい。
「あの〜シスター?」
「しょうがない。私も手伝うよ。二人でやればなんとかなるでしょ? 但しその後は萬の誕生日とクリスマスをやるからね」
「かしこました。シスターはお優しいですね」
最初っから萬を見捨てる気なんてなくて、悔しいけれど博士の策略に自ら嵌まることにした。
私の可愛い萬を魔の手から護れるのは私だけ。
「萬、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。シスター」
約束通り二人だけの誕生会兼クリスマスは、ろうそくの火を消してもらい始まった。
ケーキは手作りで、料理は美味しいと評判のデリバリー。
なんでも偶然キャンセルが出て、キャンセル待ちに回しても一人前あまっていたとか。
萬が食べられる量は少しだけだから二人でも一人前で十分。
うまく盛り付けをして今がある。
「うん。萬、これ私からの私からのプレゼント」
「私にですか? ここまでしていただかなくても良いのです。私は自働人形なのですよ」
「何言ってんの? 誕生日といえば、プレゼントって相場が決まってるの」
プレゼントを渡すと驚き恐縮するけれど、私は当たり前のことを言ってニッコリと笑う。
少なくても私の周囲はそうだった。
「では遠慮なく。………ネクタイピン。シスターの手作りですか?」
「うん」
「すごく素敵です。私の宝物にします」
すぐに開けてくれてネクタイピンを見た途端、すごく喜んでくれ嬉しいことを言ってくれる。
こんなに喜んでくれると頑張って作ったかいがあったって思えるし、萬のためにますます何かをしたくなってしまう。
「本当に萬は優しい良い子だよね? 私の自慢の弟分だよ」
「その様な事を言ってくれるのは、シスターだけです」
「博士は悪魔の申し子だから良いんだよ」
「わぁ〜僕は君にそんな風に思われてるんだ。最悪だね?」
「ド博士? お早いお帰りで」
未だ今日の仕打ちを許せない私は躊躇いもなく悪口を叩けば、博士の声が聞こえたと思ったら肩を叩かれ悪寒がぞっと走り出す。
まだ18時なのになんで帰ってくるの?
「うん。案外つまんなかったから切り上げてきた。萬、こんなとこでサボってて良いの?」
「博士の言いつけはすべて終わらせました」
「終わらせた? 早すぎるんじゃない?」
「シスターのおかげです」
「せっかく休みをあげたのに、休まなかったの?」
「なんですか、その言い方は? すべて博士が仕組んだことですよね? 私が萬を見捨てられないことを知ってている上、さらに保険を掛けて萬に護衛を頼めって言うなんてせこいですよ」
「あ、バレてた?」
少しも悪いと思っていない口調に予想通りとは言え、余計苛立ちぶん殴りたい。
「博士、クリスマスだから殴って良いですか?」
「は、ダメに決まってるじゃない? 博士を殴る助手なんて聞いたことがない」
「なら私が今ここで実例を作ります。その品曲がった腐りきった性格を私が直してあげます」
「だからダメって言ってるじゃない?」
「え?」
博士の意見など聞き入れず殴りかかろうとすれば、背後から誰かに捕まれ動きが封じられる。
萬だった。
しまった。
博士の危機を察知すると防衛システムが働くんだった。
「シスター、落ち着いて下さい」
「萬、よくやった。でも酷いよね?物であるお前の誕生日なんかを祝ってくれる優しい彼女にも躊躇がない。まあそうプログラムしたのは僕なんだけど」
「え……」
普通なら護られたのだから感謝すべきことなのに、余計な一言を言って嘲笑う。
萬は私から離れシュンと小さくなってしまった。
「萬は物ではありません。私の可愛い弟分です。萬、私は少しも気にしていない大丈夫。博士の言葉を気にしたらダメよ」
「あっそう。なら僕は消えるから」
いつもなら倍以上の言葉が返ってくるのに、今日は珍しく引き下がり言葉通り消えてくれる。
なんかそうされると逆に不気味だったりするから、あんまり深く考えないでいよう。
「シスター、私のことで博士と言い争うのは辞めて下さい。無能な私がすべて悪いのです」
「そんなことないよ。萬は私より優秀で心優しい子。私は萬が大好き。生まれてきてありがとうね」
また始まってしまった萬の凹みモードに、私はすぐ全否定し抱きしめる。
どんなに博士が辛く当たっても、萬は博士を慕って悪く言わない。
私の事も助けてくれる。
「シスター、ありがとうございます。私もシスターのことが好きです。あなたの笑顔は世界中で一番素敵だと思います」
ほらこんな臭い台詞はプログラムじゃない。