夢幻なる縁

□本編前
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 もうすぐ戦争が終戦する。
 そしたら博士の役目は終わって物語で言えばハッピーエンドを迎えるんだけれど、私にとってはそれはハッピーエンドではないかも知れない。
 もし博士が研究をすることを辞めてしまったら、助手である私と萬は当然解雇され居場所を失い路頭に迷ってしまう。
 別の博士の助手として働く選択があるとは思う物の、博士以上の博士がいるとは思えないし私は博士以外の助手にはなりたくはない。
 ……………。
 なんて生きて行く上にはお金を稼がないといけないんなんだから、そんな子供染みたわがまま言ってもいられないよね?
 さすがにひもじい思いをして、餓死なんてしたくないし……。
 それだったら博士が博士を辞めると言った時点で、当たって砕けてきっぱり諦める。
 それで新たなる人生を歩んでいくのも良いかも知れない。

 とたまに自暴自棄を起こし告白しそうになるけれども、最後の最後で勇気が持てなくてまだ実行に移せずにいる。






「愛してる。結婚を前提に僕と付き合ってほしい」
「はい?」

夕飯が出来たので博士を呼びに行くといきなりド直球のプロポーズらしき物と指輪を見せられるけれど、あまりにも突然なため開いた口が塞がらずマジマジと博士を見つめてしまった。
いつもとは違い頬が赤く染まり緊張しているのが良くわかり、本気であることを確信する。
しかしやっぱり信じられない。

だって今まで散々古希使ってくるし普段は素っ気ない態度で、まったく好かれているなんて感じたことがなかった。
そんな博士を好きになるなんて私はどM。
絶対私の片想いだと思っていた。

「嫌だったらはっきり断ってくれればいい。その方が諦めが付くから……」
「ち違います。私の方がきっと博士の事が大好きです。だから宜しくお願いします」

自信がないのか辛そうに言う博士に、私は慌てて本音を言ってプロポーズを受け入れる。

「だったら手を出して」
「はい」
「一つだけ約束。僕より先に死んだりしたら、絶対に許さないから」
「分かってますよ。博士のお葬式は私が盛大にやりとげます」
「それはいい」

左手薬指に指輪をはめてもらいいつもだったら疎まれる約束を博士の方から交わされ、私は張り切りつい余計なことを言ってしまえばそれは嫌そうに拒否られてしまう。
それでも私をぎゅっと抱き締め頭をなぜられる。
博士の匂いに包まれて胸はあり得ないほど高鳴っていくけれど、すごく幸せで涙があふれて博士のシャツに流れていく。

今まで絶対ないと思っていたのに、現実は博士も私を好きでいてくれた。
これからは胸を張って公私ともに博士の隣で歩いていける。

「……キスして下さい」
「今の流れだと僕から言うのが当たり前だと思うけれど」
「それはそうですけれど、私の方が博士のことを大好きなんだから仕方がないですか?三年以上も片想いしてたんですよ?」
「本当に君はどMだよね? 君は絶対僕より萬の方を愛してると思ってたのに」
「萬への愛情は家族愛とか母性愛です。私だって博士はお姉ちゃんが好きだから、諦めてたんですよ」

キスをせがめば少しへそを曲げられ開き直れば馬鹿にされ、知らなかったことを暴露されるから私も暴露する。

博士が萬に冷たくしていたのは、全部私が原因?
だとしたらこれからはもう少し優しく……私にも冷たいんだからそれは無理か。

「確かに僕にとっては亜理紗は今でも特別な存在であることは変わらない」
「……え?」
「だけど君が傍にいる毎日はどんなに最悪な状況だとしても明るく輝いていて幸せなんだ」

いくら内心分かっていたとしても聞いた瞬間ショックを受けるけれど、それでも後者のセリフで私は救われ水に流すことができる。

お姉ちゃんはもう死んでいるのだから次でも充分だと思えるし、何よりもお姉ちゃんの話になると辛そうな表情を見せる博士を一人にしておけない。
私が博士の支えになる。

「私も博士の傍にいられて幸せです。ただこれからはもっと優しくして下さい」
「君はどMなんだから、被虐思考じゃないの?」
「んなわけないでしょ?優しくして欲しいです」
「分かった。ならこれからはうーんと優しくするよ」

博士は一体私をどんな風に思っていたのかが良くわかる内容に、速攻突っ込めば理解はしてくれるものの別の不安が押し寄せてくる。

うーんと優しくしてくれる博士なんてまったく想像ができない。
それともやっぱりどMじゃないとしてもまだMだと思われているから、そっち系の優しさがお好みだと思われていたりしないよね?
私はMだと自覚しているけれど、普通に優しくされたいのは一般的なもの。

「……キスが欲しいんだったね?」
「え?……あっ?」

話は元に戻りとにかく甘い声で博士がそう確認すれば、顔が近づき唇を塞がれる。

私のファーストキス。
小説に書いてあったように、甘くてとろけてしまうものだった。

「この続きもしても良いよね?」
「!!」

キスでもう酔っている私を博士は押し倒をされ馬乗りになると、ブラウスのボタンを外され胸を強く揉み始める。
今まで感じたことのない感情が込み上げてきて、体の奥はムラムラして来て何かが溢れてしまいそう。
恥ずかしいけれどイヤじゃないし、もっと博士が欲しい。

「ひょっとしてまだ処女まま?」
「……はい。博士以外には触れて欲しくなかったから」
「なら僕に汚されるだけ汚されても良いんだ?」
「双方合意だからその言葉の使い方はどうかと思いますよ」
「双方合意。そうだね? 僕達はこれから深く深く結ばれる。大丈夫僕も初めてだから……優しくするよ」
「ならお揃いですね」

処女であることを馬鹿にされるかと思いきや博士は童貞だったことが分かって、なぜかホッとして嬉しくてついお揃いと強調してしまう。

すると首筋に刺激が走ったかと思えば今度は吸われる感触がして、身体中が熱くなり汗が必要以上に出てくる。
痛いのに気持ちよくて裏声が勝手発するし、頭の中がふあふあしてなにがなんだか分からない。
ただ博士の事がますます愛しく感じて、目を離せない。




「博士、シスター、いかがなさいましたか? 食事が覚めてしまいます」

ドアの向こうから私達を心配する萬の声が聞こえてくる。

「萬、今私達は良いところなんだから邪魔しないで。食事は後でする」
「申し訳ございません。では私は資料整理の続きをしていますので、何かございましたらお呼びください」
「何もないから、ほっといて欲しいね? それから彼女は今日から僕だけの者になったから」
「了解しました」
「ド博士?」

相変わらず萬には冷たくて萬も声のトーンを変えることなく、受け答えするだけして戻っていく。
私と言えば少しだけ我に返り、顔が真っ赤に染まる。

萬は意味をどのくらい理解しているんだろうか?
私は博士の者……。

「まったく空気が読めない子で困ったね? 後で今後僕と君が同部屋にいる時は、気にしなくて良いと教える。こんな所見られたくも邪魔されたくもないからね」
「そうですね。私だってこんな姿博士にしか見せたくない」

博士はまだ少し乱れているだけれど、私はもう人様には見せられない姿になっている。
博士にだってガン見されたら恥ずかしい。

こういう場合我に返ったら服の乱れは整えるものだろうか、それとも続くのだから何もせずに!?
この先って?

「そうだ。夕飯にしましょ?」
「え?」
「今日は唐揚げだから早く食べないと」

当に今さらなってそれ以上の行為が怖いと言うか踏み込む勇気がなくなり、無理矢理話0題を変え急いで乱れた服を整え立ち上がる。

せっかく両想いになれてその気にさせておいて、こんな態度を取ったら幻滅され嫌われるかもしれない。
萬が呼びに来なければ我に返らず、流れに身を任せていた。
博士じゃないけれど、軽いお仕置きが必要か。

「僕とでは嫌?」
「嫌ではないです。今のでもっと博士が好きになりました」
「なら今夜から手を繋いで寝てくれる?」

当然怯えた瞳で私を見つめ問う博士に首を横にふり否定しながら頬に軽くキスをすると、博士は私の手をぎゅっと握り再び抱き寄せる。
私と同じぐらい心臓が高鳴っていた。

「手を? 人畜無害だから?」
「あれは嘘。君の手を握っていると不思議と安眠できる。君に本気でホレて僕が君をこの手で幸せにしようと心に決めた」
「博士……。二人で幸せになりましょうね」

自分が思っている以上に博士に好かれていることが分かり、嬉しくて私も強く握り返し目をつぶる。

私もドキドキしても、博士に抱かれるのは落ち着ける。

「やっぱり我慢できそうもないよ」

と博士は言って、三度目のキスをするのだった。


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