夢幻なる縁

□本編前
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「君の元気で明るい笑顔が好きです。もしフリーなら俺と付き合って下さい」
「え、あその」

 研修が終わりたまにはショッピングでもしようと考えていると、講師をしていた芳賀雄大さんに呼び止められ告白されてしまった。

 突然すぎる告白になんて返事をしていいのか解らなくなり、言葉が詰まって下を向いてしまう。

 フリーではあるけれど、私は博士が好きで慕っている。
 でも博士は相変わらずお姉ちゃんに片想い。
 死人を嫌いになる可能性はゼロに等しいから、私の片思いはいつまで経っても報われないだろう。
 だったらせっかくこの人が私に好意を寄せているんだから、私も少し目を向けて見るのも良いかも知れない。
 それで私のことを大切にしてくれる優しくて楽しい人なら付き合ってみようと思う。

「あ、ごめん。いきなり過ぎてビックリしたよね?」
「まぁ。私加賀博士の事よく知らないから、まずは友達からで良いですか?」
「もちろん。ありがとう。なら今度の休み遊びにいかないかい?」

 ここは無難すぎる答えを返すと、加賀博士の顔がパッと晴れ嬉しそうに誘われる。

 犬みたいな人。

「はい。だけど私の休みは博士の気まぐれだから、加賀博士の休みに合わせます」

 丸一日のお休みなんてこの一ヶ月ないなと思いながらも、そんなこと言えるはずもなく話を合わせた。
 たまには休みを申請しても文句はないと思うし、言われても労働基準法を盾にすれば許可は降りるはず。

……あとが恐ろしいけれど。

「博士って藤堂の事だよね?大丈夫こき使われてない?」
「まぁ確かにこきは使われてますけれど、学ぶべきものがあってとっても楽しいです。博士は優秀で尊敬できる人です」

 言わなくてもなぜか速効にバレてしまい心配されるけれど、私はありのままを答え笑う。

 休みが極端に少なくても私は現状に満足している。
 それに早く終戦をさせたいと思ってるのは私も同じだから、ついつい頑張ってしまう。
 でもやっぱり博士は、私以外の人にでも鬼なんですね?

「そうなんだ。藤堂は優秀な助手を持てて羨ましいよ」
「そんなことありませんよ。でもありがとうございます」

お世辞だとは思っても、そんなこと言われて嬉しかった。

そして私は加賀博士の休みを聞いて別れた。







「博士、今度の金曜日休んでも良いですか?」
「は、駄目に決まってるじゃない」
「え、でも私今月一度も休んでないですよ」
「それが? 僕も萬も休んでないよ。萬、休みたい?」
「私は自働人形なので休みなどいらないです」
「ほら? ちなみに僕もそんなものいらないから、二対一でその申告は却下。残念でした」
「………」

帰宅して頃合いを見計らい申請してみると、薄情までに否定され足掻いて見ても無駄に終わる。

まるで私が休みまくっているような言い方。
でも実際は今まで一度も休みなんて申請したことがない。
ここはやっぱり最終手段である労働基準法を盾にするしかない?

「何その目は? 大体なんで休みたいの?」
「……デートに誘われたんです」
「は? 馬鹿馬鹿しい。そんなもんは終戦を迎えてからじゃないの?それとも君はさっさと終戦させたくないの?」

不満ある視線を向ければキツく正論を不機嫌に言われ、それはごもっと過ぎて何も言い返せなくなり凹む。

 私が愚かで馬鹿だったことに気付く。

「そうですよね? 私達のやるべき事は早く終戦させる事なのに、恋に現を抜かしてる場合ではないですよね? 博士のおかげで目が覚めました」
「わ分かれば良い。……それで相手は誰? 僕が断ってあげる。うちの助手は遊んでる暇などないって」
「自分で断れます」

なぜか要らない提案をされるけれど、それは相手に失礼なのでやめてもらう。

いくら真実だからと言ってももっとソフトな言い方があるだろうし、そもそもなんで博士が断るとか言いだしたのだろうか?
そんなことをすれば誤解が生まれることぐらい博士なら分かってるはずなのに。

「それは恋と言えないんじゃない? 僕が反対したぐらいで、別れられるんだから」
「告白されただけです。良い人なら付き合ってみようかなと思ってましたが、それは終戦を迎えてからにします」
「たまに君の頭の中を覗いてみたくなる。頭がいいんだが悪いんだが」

最強に呆れられ頭をコツかれる。

そう言われても仕方がないけれど、でも博士の場合はどうなんだろう?
博士は終戦を迎えるまで恋愛はしない?
多くの女性と噂があるのは、ただの噂だけ?
それとも生涯お姉ちゃん一筋?

そもそもこうなったのは博士に片思いしていても無駄だと思ったから、見方を変えれば違う世界が見えてくる思っただけ。

これ以上博士を好きになるのが怖かった。

「博士は終戦したらどうするんですか?」
「今と何も変わらないよ。恋愛は遊び程度で充分」
「なんかそれって淋しくないですか?」
「そう? 傷つかなくていいから楽だよ。それに亜里沙よりも素敵な女性なんて、現れないよ」
「………ですね?」

 博士の歪んだ考えに反論するもののそれはやぶ蛇でどこか遠くを見るように悲しげに言う博士を見るなり、私もやるせない気持ちになり泣くのをこらえ下に向く。

 やっぱり見込みなんてないんだ。
 私がお姉ちゃんよりも素敵な女性になんてなれるはずがない。
 だから私は……。

「……僕は今の生活が案外気に入ってるんだよ。君は助手としては優秀だから、終戦を迎えたとしても僕の傍にいてくれる?」
「え、いきなりなんですか?」
「つまり君と僕は、ビジネスパートナーって事」


 なんの脈略もなく突然そう言う話になり、いつものように軽い口調で頼まれる。
 言われた瞬間何を言っているか分からなかったけれど、少し考えればすぐにその意味を理解した。

 私、博士に認められた?
 傍にいても迷惑じゃない?

「嬉しいです。博士に認めらるなんて夢みたい」
「あんまり調子に乗らない。僕が認めたのは実力だけでその他は認めてないから」
「実力を認めてくれるだけで充分です。一生博士に着いていきます 」
「……ほら調子に乗ってる。単純なんだよ……」

 嬉しさのあまり博士の手を取りニコニコ笑顔ではしゃいでしまう私を、博士の頬はかすかに赤く染まり何かを呟き肩を落とす。
 あまりにも私が幼稚すぎて呆れられたようにも見えるけれど、その割にはなんだかホッとしているようにも見える。

「加賀博士には丁寧に断ろう。私はしばらく仕事に生きるって」
「へぇ〜、君に告白したのは加賀なんだ」

 すっかり気が緩んでしまった私は隠していた名を言って意気込むと、急にどす黒い邪気が流れ出し意味深に博士は呟きクスッと笑う。
 無気味すぎて思わず後退する。




 その後すぐに電話で告白の返事を断ってみた物の、まずは友達から始めようと押し切られてしまった。

 ……が、

 数日後には私の顔を見るだけで青ざめ逃げて行くようになり、友達と言う話は消え去った。

 なんでだろう?




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