夢日記

□本編
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「ちょっと一体、これはどう言うことなのよ? ちゃんと分かるように説明しなさいよね」
「み神子、く、苦しい。お、落ち着いて」

興奮状態のあたしに思いっきり首を絞められた白龍は、顔を真っ赤に染めじたばたしながら苦しそうにそう言った。

「これが落ち着いていられると思う?なんで六波羅に何回行ってもヒノエ君が登場しないの?バグってんじゃないでしょうね」

しかしあたしは言うことを聞かず、言いたいことだけマシンガンのように言い放つ。




あたしが『遙か3』の夢を見るようになって三日目のこと。
昨日の夢は、無事に京へたどり着いたあたし達は朔んちにしばらくご厄介になり、いろいろ龍神についてやこれからことを話し合った。
それであたしの実力を知らない九朗君がいる法住寺に行くことなったんだけど、途中で弁慶さんの五条大橋のイベントが発生しため進めていたら時間切れになってしまった。

そして今夜の夢。
あたしは期待に胸を膨らませながら六波羅に行ったんだけど、いくら探しても本命中の本命であるヒノエ君が現れてくれなかった。
初めはおかしいなと思って一旦は六波羅を出たんだけど、やっぱ気になってしまい再び六波羅へ。
計五回は行ったんだけど、結局現れずに日が暮れてしまい朔んちに戻ってきたのである。
結局法住寺には今日も行けなかった。



「ちょちょっと雫、何してんの?そんなことしたら白龍が死んじゃうじゃない」

あまりにもあたしの声がうるさかったのか、隣の部屋の朔が来るなり慌ててあたしを白龍から引き離す。
ようやく逃れた白龍は、その場にしゃがみ込み喉を押さえ咳込む。

「だってこれは私の夢なのに、なんで思い通りに行かないの?」

完全に頭に血が上っているため、つい本当のことを口走る。

「え、夢?なんだ。寝ぼけてるのね。でもだからって白龍に当たるのはどうかと思うけど」

事情を知らない朔にしてみれば当然の意見だった。
だけど優しく注意されるだけで助かった。

「そ、そうだよね」

我に返ったあたしは、朔に話を合わす。

「明日も早いんだから、早く寝るのよ」
「は〜い」

とあたしが元気良く返事をすると、朔はニコッと笑い「おやすみ」と言って再び自分の部屋へ戻っていった。

「神子、ごめんなさい。私お兄ちゃんに聞いてくるから先進めといて」

続いて白龍もそう言い残し、一瞬のうちに消えてしまった。

先に進めるって、進めたらヒノエ君と会えないじゃない?

取り敢えず寝よう。    



「なんだ、進めるってこういうことか」

白龍の意味をようやく理解したあたしはそう呟き、近くにあった椅子に腰掛けた。

目覚めた場所は懐かしい教室だった。
あたしの通っていた高校の教室になっている。

教室なんて一体何年ぶりだろう?
本当に懐かしいな。
これって確か将臣君の登場イベントだったよね。
だけどこれってかなり順番が狂っているような。

「でも、夢の中の夢なんておかしいかも」

自分で思い、勝手に笑った。
すると、

「お前、何さっきりから分けの解らないことばっか言ってるんだ?」

あたしの後ろから将臣君の声がする。
どうやら将臣君はちゃんと登場してくれたみたい。
良かった。

「あ、将臣君。ちょっと懐かしい夢だなって思って」

あたしは後ろを振り向き、将臣君を見上げた。
ちゃんと装備服を着ている。

「夢?やっぱそう言うことか。ならお前も、俺の夢?」
「かもね。あたしに夢かも知れないし」

と言ったが、間違えなくあたしの夢なんである。

「まぁいいか。でもお前としゃべるなんて何年ぶりだろう?昔は毎日のようにあってたのにな」
「そうだね。あたしも。あたしね、今京に入るんだよ」

なんだか思い出話になりそうな感じだったので、話を大夫省略してしまった。
将臣君と語れる思い出話なんて、あいにくあたしには全くない。
多分でっち上げでも話は通ると思うけど、そんなのちっとも面白くない。

「京?奇遇だな。俺も今用事で京にいるんだぜ」
「だったら、逢わない?」
「すまん。俺明日すぐに戻らないとならないんだ」

将臣君はきっぱり断ってきたが、あたしには絶対NOと言えない切り札がある。
ゲームをやったことある人なら、誰でも知ってる究極の切り札。

「良いのかな?そう言うこと言って。あたし知ってるんだよ将臣君の立場」

あたしは余裕たっぷりの笑みを浮かべながら、立ち上がり将臣君の背中を叩いた。
将臣君の顔色がたちまち真顔に変わる。
一回やってみたかったんだよね。
恐喝って奴。

「俺の立場?」
「そう。将臣君って平家側の人なんだよね。でも京は源氏の地。あたしが言えばどうなるか分かるわよね?」

あたしって、なんて悪女なの?

将臣君はあまりのことに言葉を失っている。
まさかあたしがあんなことを言うなんて、予想もしなかったのだろう。

「まぁ、そんなに力まないでよ。あたしだって幼馴染みの将臣君を簡単に売らないからさ」

あたしは笑いながらそう言う。

ここまで筋を滅茶苦茶にしてしまうのも、結構面白いかも知れない。
将臣君には悪いけど、当分遊ばせてもらおう。だってよく考えれば、将臣君のせいでいろんな悲劇が生まれちゃうんだから。

「お前、性格変わったな」

ようやく彼の口から出た言葉は、皮肉にも取れる内容だった。

まぁそう言われちゃうのも、無理ないけどね。

「そう?今日までいろいろあったからね」

しかしあたしは冷静にそう対処する。

「そうだな。俺もいろいろあったんだ。分かった明日会ってやるよ」

さすが将臣君、話が分かる。

「ありがとう。じゃぁ、下鴨神社で待っててね」
「ああ」

ほとんど強引に会う約束をしたあたし達は、お互いに笑顔になった。
良かった将臣君、そんなに怒ってなくって。

それともこれってあたしの夢だからなのかな?
どんなことをやっても嫌われないし許される。

そんな風に進んで行くのだろうか。
少しぐらい予想外なことがあれば良いんだけどな。


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