夢日記

□本編
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「ここで夜になるまで身を潜めよう」

命カラカラ逃げてきったあたし達は邸から少し離れた、森の茂みの奥で足を止めた。

「うん。……ってヒノエ君怪我してるじゃない?」

あたしは頷きヒノエ君を見ると、白い上着の右肩が赤く染まっている。

「どうやらオレとしたことが、弓をかすめたらしい」

かすめたと言っている割には、出血の量が多すぎる。

「早く手当てしないと。ヒノエ君、服脱いで」
「大丈夫だよ。このぐらい」
「駄目。酷いじゃない」

拒むヒノエ君にあたしはやや大きめな声で怒鳴りつける。
こんな所でヒノエ君に倒れられてしまっては困る。
だってあそこに弁慶さんがいたってことは、光樹達は捕まってしまったと考えるしかない。
そしたら助けないと。
それに弁慶さんを説得しないと悲しい結末になってしまう。

「……分かったよ」

あたしの思いが通じたのか、ヒノエ君は渋々手当てに応じてくれた。

傷は、思ったより軽症だったが、それでも痛そうだった。

「本当に、痛くないの?」
「まぁな。このくらい唾つけとけば平気だよ」
「分かった」

あたしはヒノエ君の傷の血を吸い取り丁寧に舌でなめる。
これにはヒノエ君さえ予想外だったらしく、ほほを赤く染めあたしを見つめだした。
はしたないとかけだれてるって思われてしまうかもしれないけど、辺りには水もなく薬もない。
だから消毒代わりに少しでもなってくれればいいと思った。
気持ち悪くなるほどの血の味がする。
でもこれでヒノエ君が救えるなら、なんだって我慢できるよ。

「そんなことしたら、汚いだろう?」
「あ、ごめん。他人の唾なんて汚いよね」

言われてあたしは口を押さえ反省する。
こんなことやらてたら、誰だって嫌がるじゃない。

「違うよ。オレの傷のことだ」
「そんなことない。でももうこれで終わりにするね」

ヒノエ君はそう言ってくれたけどもう続けることなど出来るはずもなく、帯を外しヒノエ君の肩に巻き付ける。

「……雫は、オレに襲って欲しいわけ?」
「え?」
「こういう風にだよ」

何を思ったのか、ヒノエ君はあたしを押し倒しキスをする。
そこであたしはようやく言葉の意味を理解した。
顔に火が付く。

「バカ。そんなはずないでしょう?まだ途中なんだから大人しくしてて」
「無理だね。雫がいけないんだよ。あんないやらしいまね平気な顔でやるから、我慢できなくなった」

あたしのとっさの行動が、ヒノエ君を挑発させてしまった。

考えてみれば好きな人にあんなことやられて、服がこんなに乱れてたらこうなるよね。
それにあたしだって、ヒノエ君のこんな姿で迫られたらこのまま流されてしまいそうだ。
だって良く見ると、ヒノエ君の胸板って厚くてたくましい。

「だからって。今そう言うこと言っている場合じゃないでしょう?」
「こういう時こそ、息抜きが必要なんだぜ。……だからいいだろう?」

いくら拒んでもヒノエ君は余裕の笑みで、あたしを誘惑し続ける。
どうにか辞めさせたくてもあたしの体はヒノエ君を欲しがって、息ができなくなる程抱きしめられたいと願っていた。
でもそうなったらあたしはそれ以上の物を、ヒノエ君に要求してしまう。
そうなってしまったらもうあたしは、元の生活に戻れない。
私はもう二度と恋愛が出来なくなる。
本当にあたし、駄目になってしまう。

「……ごめん。あたしヒノエ君とこんな関係を持ちたくない」

やっとの事で蚊の泣くような声で、あたしはハッキリ拒否した。

「雫?」

その言葉にヒノエ君はショックを受けたらしく、あたしから離れ愕然としたっ表情になってしまった。
身動きが取れるようになったあたしは、体を起こし素早く身なりを整える。
欲望に勝つことが出来たんだあたし。

「あたしはヒノエ君のこと好きで好きでたまらない。だけどもしあたしに今以上の関係を求めてるなら、あたしヒノエ君とはもうやっていけない」
「…………」
「ここで終わりにしよう。そしてそれに答えてくれる違う子を、捜した方が良いと思う」

ようやく気持ちが通じ合えて残された時間を精一杯愛そうと思ったのに、もう別れなければいけないの?
それとも否定しないで受け入れるべきだった?
あたしの気持ちなんて尊重しないで、ヒノエ君の好きなようにさせてあげれば良かったの?

「悪い。オレちょっと頭冷やしてくる」

あたしの案を答えることもなく、ヒノエ君はどこかに行ってしまった。

平家軍と怨霊が辺りにいるかも知れないけど、ヒノエ君なら大丈夫だよね。
もうあたしのこと嫌いになっちゃたかな?
なるに決まってるよね。



「神子、もう良い?」
「白龍、どうしたの?」

茂みの中から赤面化した白龍がモジモジしながら、ひょっこり出てくる。

「え、もう朝だから迎えに来たんだけど………」
「まさか。今の見てたの?」

あまりにも様子が変だったのであたしは恐ろしいことを聞くと、コクリと頷いた。
あたしの顔から血の気が引き青ざめていく。
今更ながら恥ずかしさ全開であったことに気づく。

見られてたんなんて最悪。

「取り敢えず戻して」

あたしも起きて頭を冷やして、これからのこと考えよう。

「うん。それじゃぁ、また」

と白龍は言って、あたしはいつも通り目覚めるのだった。



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