夢日記

□本編
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「神子、良かった。来てくれたんだね」

目を真っ赤にした白龍があたしに飛びつき、そう言って声を出し泣いてしまった。

そうか、あたし白龍にも迷惑かけちゃったんだね。
辛かったのはあたしだけじゃなかったんだ。

「ごめんね、白龍。もうあたし大丈夫だから」

あたしは笑顔で白龍の頭を優しくなぜる。
ヒノエ君に会うのは少し怖いけど、もう二人っきりになってしまうイベントはないから何とかなる。

「本当に?」
「うん。だから次の章に進めて」
「分かった」

次の章に進めば何もかも解決する。
元のあたしに戻って、また強気な発言を言いまくって楽しむ。
朔になった光樹と二人で。
だが、

「雫?」
「ヒ、ヒノエ君」

なぜだかあたし達の前に、息を切らしたヒノエ君が現れた。

あたしを追いかけてくれたの?

でもあたしはまだヒノエ君に会う心の準備が出来ていなく、思いっきり動揺してしまう。
やっぱり顔が見られない。
せっかく元気を取り戻しかけた白龍だったが、再び心配そうな顔であたしの顔を覗き込む。

「さっきは、すまなかった。お前が本気でオレのこと嫌いだとは思ってもいなかったんだ」

顔は見られないが、ヒノエ君は悲しそうな口調だった。

違う。
本当は大好き。

「………」

喉まで出掛けた言葉は、堪えている涙と一緒に飲み込む。

「おわびにお前の言葉信じるよ」
「え?」
「それで本当に源氏が優勢になったら、熊野を参戦させるよ。熊野別当藤原湛増として約束する」

あまりのことにあたしは、呆然とするしかなかった。

あんなに熊野を参戦させたかったはずなのに、今は一番参戦して欲しくない。
だってこの言葉の意味って、つまりこれから先ヒノエ君の章になってしまうんだよね?
なんでこんなことになるの?

「ちょっとヒノエ殿、何やってるんですか?」

そんな時突然朔の声が聞こえた。  

「朔?」
「私よ。光樹」

驚くあたしに、朔はそう耳元で囁きウインクをする。
なんで光樹がすでにいるのか分からないけど、グットタイミングだ。

「何って別に、姫君とただ話しただけだよ」
「それで話はもう終わりましたか?」
「ああ。終わったよ」
「なら、。帰りましょう」
「え……うん」

テキパキと話を進め光樹は、あたしと白龍の腕を掴んでその場を離れた。
強引だと思うかも知れなかったけど、今のあたしにはこのぐらいがちょうど良かった。


「雫、大丈夫?」
「うん。でもお願い。しばらく一緒にいて」

少し歩き誰もいなくなったのを確認した光樹は、そうあたしに尋ねたのであたしは正直に今の心情を答えた。
光樹と白龍が一緒にいてくれさえすれば、今度こそ絆の章は失敗に終わる。
成功しようがない。

「それは良いけど。またヒノエから何か言われたの?」
「うん。間章はヒノエ君になっちゃった」
「え、それって……分かった。私が何とかするから任せてよ」

何か良い考えを思いついたらしく、光樹は胸を張ってそう言いきったのであたしは頷いた。
頼もしいよ、光樹。
ここまで光樹がやってくれるなら、何も怖くないよね。
今度こそ白龍を安心させなくちゃ。

「白龍、いろいろ面倒かけちゃってごめんね。でも今度こそ大丈夫だから、間章に進んで」
「そうだね」

あたしが明るく言ったのにも関わらず、白龍はから元気になるだけだった。





あたしの予想通り間章のメインはヒノエ君だった。

最初の作戦会議では、わざとヒノエ君の絆が下がるような答えを言ったり正解を光樹が答えたりいろいろやっては見たんだ。
あたしもだんだんいつもの調子を取り戻し、再び言いたい放題言っている。
けど、問題の妹背山の川岸でまたしても事件は起こしてしまった。

「ここで休憩でも取りましょう?」
「絶対いやです」

妹背山の川岸に着くと弁慶さんが、そうあたし達に尋ねるのであたしは速攻に却下した。
だってここで休憩を取ったら、発生確率が高くなってしまう。

「ずいぶん挑戦的な否定ですね」
「ハイ。だってあたしまだ疲れてませんから。朔と白龍だってそうでしょう?」
「そうね。もう少しなら頑張れるわ」
「私も後少しなら」

事情を知ってる二人も、あたしに賛成する。
ようはここで休憩しなければ、問題はなくなる。

「だけど、ここから先は休憩できる場所がないんですよ」
『え?』

弁慶さんの言葉にあたし達は思わず声を上げてしまった。
夢だからと言ってもこう歩いてばっかりだと疲れてしまう感じがするのだ。
実際少しばかり疲れてたりする。

「だから無理をせず、ここで少し休憩しましょう?」
「だったら弁慶さんの昔話をして下さい」

こうなったら何がなんでも一人にならなければいいと考えたあたしは、素早く頭を動かし考えた。
あたしってこう言うことだったら、頭の回転が速いんだよね。

「はい。もちろん。良いですよ」

笑顔で答える弁慶さんだった。

「本当に君と白龍は、仲がいいんですね」

あたしの隣にべったりとくっついている白龍を見ながら、弁慶さんはそう言い苦笑した。

あたしと二人だけの方が、良かったのだろうか?
まぁ弁慶さんならそれでも良かったんだけど、白龍がどうしてもあたしの元から離れようとしなかった。
あたしのことを心配してくれている証拠だ。
だから光樹には好きなことして良いよって言ったんだ。
だって光樹もあたしと同じぐらい遙か好きだから、光樹だって本当は楽しみたいはず。

「はい、とっても仲良しです。ねぇ、白龍?」
「うん。私は神子が大好きだから、いつでも一緒」

そう言ってあたしと白龍は笑顔で、うなずき合う。

やっと白龍が笑った。
白龍が笑ってくれると、あたしまで元気になれる

「ちょっと焼けますね」

それを聞いた弁慶さんは苦笑する。

こんな感じでヒノエ君とも話が出来たらいいのにな。

そう思いながら何気なくヒノエ君の方に目をやる。
遠目で見る分には平気になったと言うより、目線が合わなければ平気だ。
あたしの祝福の時。
やっぱりあたしはヒノエ君のこと本当に好きなんだね。
気持ちは伝えられないけど、それでもあたしは満足している。

でも
ヒノエ君のそばには光樹がいて、楽しそうに何かを話してる最中だった。
声は聞こえないが、あのプロポーズの絆の章。
あたしではなく光樹と。

「まったく。ヒノエは。雫さんが駄目だと分かったら今度は朔殿とは良い度胸していますね?」

弁慶さんもヒノエ君達見つけたて呆れつつも笑いながらあたしに言った。
しかしあたしはその一言で、完全にハートが砕け散って奈落の底に落とされてしまう。

せっかく気持ちの整理がついたって思ったばかりなのに、なんでこんなことになるの?
光樹はヒノエ君が好きなの?
それともただ絆の章を満喫してるだけ?

「そうですね。でもヒノエ君らしい」

でもここで泣いてしまったり暗い顔をしてしまったらまた白龍に苦労を掛けてしまうので、あたしは無理矢理笑顔を作り弁慶さんの話を合わせた。


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