FRAGMENT

□8章 素直のままで
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「明日はクリスマス会をやろうよ」
「ああ、それいいな。譲、期待してるぞ」
「仕方がないな。まったく」

ある日の夕食のこと。

いきなり望美は楽しげに聞き覚えのある言葉をみんなに言えば、将臣は乗り気で賛成をして譲は乗り気じゃないけれどそれでも渋々賛成をした。
しかし他の人達は不思議そうな顔をして、望美達を見つめている。
そんな奇妙な光景は今までも良くあったため、大体の察しは付くけれど私にも意味は良くは分からない。


クリスマス。
確か冬の行事で去年は保護者達とケーキを食べて………洋服をもらった。
フリルが着いているワンピース。
次の日それを着たら保護者が喜んでくれて外出したら将臣が外にいて、誘われお昼とケーキを食べてその後別の店でイヤリングを買ってくれた。
と言うことはつまり…………?

「クリスマスはケーキを食べて、プレゼントを貰う日でいいんだよね?」

柄にもなく考えまとまった答えを声に出して言うと、望美と譲の笑顔が引きつり肩を落とす。

「まぁ〜、平たく言えばそんな感じかな?クリスマスは大切な人達と過ごす特別な日。私達はいつもクリスマスにはパーティーしてるんだよね。梓は家族としたの?」
「うん、次の日将臣とお昼とケーキ食べて、デパートでイヤリングを買って貰った」
「え、ま将臣くん。梓とデートしてたの?」
「え……その………ただ遊びに行っただけだ」

望美の問いにありのまま正直に答えるればびっくりして将臣に確認すると、将臣はイヤな汗をどっと流し曖昧にそれだけ答えた。


あれは言ってはいけなかったことなのだろうか?
だとしたら将臣に悪いことをしたのかも。
後でちゃんと謝ったら、許してくれるかな?

すると私の隣にいるヒノエからただならぬ殺気が漂い、私を強く抱きしめ唇を重なり合わせる。
よく分からないけれど、ヒノエの様子がおかしい。
もしかしたら病気だったら、凄く心配だ。

「ヒノエ?」
「望美、オレはそのクリスマス会は欠席で良いか?」

直接聞こうとしてヒノエの名を呼んだけれど、ヒノエは望美に話しかけたから声はかき消されてしまった。
しかもヒノエらしくない言葉に私はもっと心配になり、望美は理由が分からない感じで戸惑い首を傾げる。

誘いを断るなんて、絶対におかしい。
だってこう言うみんなで騒ぐのは、ヒノエが好きなことだもん。

しかし

「え、何か用事があるの?」
「そんなの決まってるだろう?クリスマスって言うのが大切な人と一緒に言うのなら、オレは明日梓と二人だけで共に過ごすよ」

望美の問いにヒノエは当然とばかりに答えたと同時に、私はようやくその意味を理解し安心する。

ヒノエはやっぱりヒノエだった。
心配する必要は少しもなかった。

「あ、なんだ。そう言うことか。分かった。ならクリスマスのこともっと詳しく教えてあげるよ」
「クリスマスについては、将臣にたっぷり教えて貰うよ。な将臣?」

望美にも意味が分かり笑顔になりそう親切に言うけれどヒノエは考える様子もなく断って、なぜか脅えている将臣にさっき感じたただならぬ殺気を再び漂わせながら意味深に頼む。
将臣の顔からサッと血の気が引き青ざめるが、断らずに無言のまま二つ返事をして了解する。
その異様な光景の意味は私と九郎以外は理解しているらしく、呆れ顔で二人のことを見つめて二人は部屋から出て行ってしまった。


「ヒノエくんって、本当に嫉妬深いんだね。去年の話だって言うのに、将臣くん大丈夫かな?」
「それだけ梓さんのことを愛しているんでしょう。今までのヒノエは相手を束縛せずにされないことを好んでましたから」

二人がいなくなった後、望美と弁慶はため息交じりでそんなことを話し始める。

嫉妬深い?
束縛?

「梓は幸せ者ね。それで梓はヒノエ殿に何をプレゼントするの?」
「プレゼント?あっそうだね。ヒノエにプレゼントを渡さないとね」

ニッコリ微笑む朔に大切なことを言われ、そのことに気づき頷きそう答えた。
いろいろと分からないことばかりでその意味を教えて貰いたいけれど、今はそれよりももっと大事なことがある。

クリスマスは大切な人にプレゼントをする日であるんなら、私はヒノエにプレゼントをしたい。
ヒノエは私の一番大切な人だから。
ヒノエも私にプレゼントくれるかな?

「何をプレゼントしたらいいのかな?」
「ヒノエくんなら、なんでも喜ぶと思うよ。だけど一番喜ぶのはきっと………」

プレゼントする物がまったく思い浮かばなく悩む私に、望美は親切に私だったら思いつかない良いアイデアを耳元でそっと教えてくれた。

確かにそれなら一番ヒノエが喜んでくれそうだし、もしヒノエがそのプレゼントをくれたら嬉しい。
だから私はそれにしよう。









「さぁ姫君、今日は聖なるクリスマス。一日中オレと逢瀬を楽しもう」
「うん、ヒノエ。メリークリスマス」

次の朝私は朔に手伝ってもらいヒノエに貰った着物を着て部屋から出ると、ヒノエがすでに待っていてそう言いながら私の手を取り手の甲にキスをした。
だから私は昨日望美が教えてくれた言葉を言うと、ヒノエが好きだと言っていた笑みが自然とこぼれる。
それはこれからヒノエと過ごすことが、今から楽しみで仕方がないから。

ヒノエのおかげで私は、いらないと教えられた感情を学んだ。
ヒノエと出掛けるのはもちろん、ヌクと遊んだりみんなと一緒にいることすべてが楽しい。
感情は楽しいことじゃなくて、一人でいることは寂しくて悲しい。
私も普通の人に近づいているんだろうか?

「今日のお前は一段に美しいね」
「こう言う時はありがとうで良いんだよね?ありがとう、ヒノエ」
「ああ。梓は素直だな。今日は将臣の時よりもずっと楽しい思いをさせてやるから、期待してても良いぜ?」
「本当に?将臣の時は別にも思わなかったけれど、それでも期待しても良いの?」

ヒノエに誉められお礼を言うとヒノエもニッコリ笑いそう言ったから、私は正直にあの時のことを簡単に話してそう問う。


あの時の私は感情はなかったから、一緒に遊んでも何も思わなかった。

………あっあの時食べたケーキは、美味しかったと言うことだけ覚えている。
感情がなくても美味しいって言う感情だけはあった。

「ああ、オレとしてはその方が嬉しいけどね。梓を楽しませることが出来る男は、このオレただ一人だけだからな」
「うん、そうだね」
「もう梓ったら少しぐらいヒノエ殿を焦らすことも覚えなきゃ駄目よ。あんまり一途だと、つけ上がって浮気されても知れないわよ」

そんな会話をして玄関に行こうとすると朔も出てきて苦笑しながら、良く意味が分からないことを私に言う。

ヒノエを焦らす?
浮気?

浮気って言葉は知っている。
結婚しているのに、他の異性に気がひかれ関係をもつことだって、昔の上司に教わったことがある。
でもヒノエは結婚してないし、そもそも関係をもつって何?

「朔ちゃんは相変わらずきついことを言うね。確かに梓には焦らして欲しい気もするけど、オレだって梓に一途なんだぜ?浮気なんてするはずないだろう?」
「ねぇヒノエ関係もつってどう言うこと?」
「ちょっと梓そんなことヒノエ殿に、聞いたりしちゃ駄目よ」

私を抱き寄せ自信を持って断言するヒノエに私は首をかしげながら疑問を聞いてみると、朔は顔色を変え声を張り上げたけれどそれはもう遅い。
ヒノエに更なる笑みが宿り、キス以上の舌と舌が絡み合う。
そしてその口づけが終わったら今度は首筋と耳たぶを噛まれ、耳に吐息をかけられた。

体から力が抜けて、息が荒くなっていく。
でもそれは気持ちよく、この感じは前にも経験したことがある。

「こう言うことだよ。大丈夫。オレはもう梓としか関係を持たないから」
「ヒノエ殿。やるのでしたら、誰もいない場所でやって下さい」
「あれ、反対しないんだ?」
「今日は特別な日ですから、特別に大目に見ます。それじゃぁ私はクリスマスの準備があるので、後はご自由にして下さい」

いつもだったら怒り出しそうなことなのに朔はため息交じりでそう言って、私達を残し一人台所に行ってしまった。
ヒノエはそんな朔にあっけに取られるけれど、すぐに我に戻り私の手を握り玄関の方に歩き出す。

「ヒノエ、どこ行くの?」
「とっても良い所だよ。黙ってオレに着いてきて欲しいんだけど」
「うん、いいよ」

断る理由がなかった私はヒノエの問いに頷いて、黙ってヒノエに着いていくことにした。



外に出るといつの間にか雪が降っていて、相変わらす寒く白い息が出る。
前の世界では雪なんて滅多に降らなかったけれど、ここの世界では良く降り積もり見渡す限り一面が白の世界。

こう言うのを銀世界の言って、更に今日はクリスマスだからホワイトクリスマスとも言うらしい。
それはロマンチックなことだと、望美は言っていた。

「寒いね。ヒノエ」
「そうか?オレは梓といられるから心も体もホカホカだよ。なんならオレの上着を羽織ると良いぜ?」
「ありがとう、ヒノエ」

寒すぎで白い息を吐きながら自分の手を温めながら言えば、ヒノエはそう言って自分の上着を私に貸してくれ私はすぐに羽織った。
ヒノエと同じ温もりがして、不思議とすぐに暖まる。

それから私はヒノエの馬に乗って出発した。








「さぁ姫君、着いたよ」
「ここがヒノエが私と行きたかった場所?」
馬を走らせることしばらくして、森の中でヒノエはそう言って馬を止めた。
「そう。あまりにもちんけな場所でがっかりしたかい?」
「ううん、ヒノエが行きたい場所なら、私はどこだっていいよ」

辺りをキョロキョロする私を不信に思ったのかそう訪ねるヒノエに、私は首を大きく横にそう答える。

確かにヒノエがこんな静かで殺風景な場所に連れてくるなんて思わなかったけれど、それでも私はこうしてヒノエの傍にいられるならそれだけでいい。

「姫君は欲がないね。だけどこのヤドリ木は、恋人達にとって伝説の木らしい」
とヒノエは言って私を抱き上げ馬から降ろしてくれる。
「伝説の木?」
「ああ。クリスマスの日にこの木の下で男に口づけされた女性は、絶対その男と結婚しないといけないんだぜ?」
「ふ〜ん、そうなんだ」
「だから………チュッ」

伝説を教えてもらってもイマイチ分からず他人ごとのように反応すると、ヒノエはニコッと笑い私の唇に重なり合わせ口づけを交わす。


ヤドリ木の下で男性に口づけをされると、絶対にその男性と結婚しないといけない。
さっきヒノエは教えてくれた。


と言うことはつまり私はヒノエと結婚するってことだよね?
ヒノエは私なんかと結婚したいの?

「お前の味は本当に甘くてくせになりそうだ。この味を一度知ったら、誰にも渡したくないし他のなんてしたくないね。ねぇ梓、オレはお前にありえないほど夢中なんだよ。お前をオレだけの物にしたい」
「だったらあげるよ」
「え?」
「私からのヒノエへのクリスマスプレゼントは、私だから」

以前と同じような台詞を私を強く抱きしめ、ゆっくりと耳元で囁くから頷けばヒノエはキョトンとしてしまう。
それでも私はちゃんと望美が教えてことを言うと、ちゃんとヒノエに伝わったらしく、すぐに笑みが戻り何度も口づけを交わされ続けた。


ヒノエの味だって甘くて美味しい。
一番最初にした時から、私は知っている。


ねぇヒノエ。
私とヒノエの味のどっちが甘いの?



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