神南管弦楽部 マネージャー 奮闘記録

□神南管弦楽部 マネージャー 奮闘記録
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「東金先輩って、結構鈍感なんですね」
「お前に言われたくない。お前はバカで鈍感だろうが?」

日頃のお返しと言わんばかりにあたしはニッコリ笑い東金先輩を貶すと、倍以上の身に覚えのないことを言われてしまう。
こう言うことを言うのは東金先輩と土岐先輩だけで、他の友達からは今まで一度も言われたことがない。

「あたしは鈍くないです。………バカって言うのは認めますが………」
「いいやお前は超が付くほど鈍感だ。くだらんことを考えないで、さっさと行くぞ」

あたしの反論を真っ向から否定し、手を取り引っ張り先を急ぐ。
どこか目的地がちゃんとあるのかどこの店にも目をくれず、だんだんペースが早くなる。

東金先輩がそんなに急いで行きたいほどの店はどんな所か気になるけれど、そう言う時は大概悲惨な目に合い泣かされる。
時々春休みの時見たく最高って思う時もあるけれど、それはレア中のレアだから期待しない方が良い。
って言うかあたしが今東金先輩に付き合う理由はどこにもない。

「東金先輩、もっとゆっくり歩いて下さい」
「あ、すまん」
「そして出来れば、その手も離して下さい」
「それは無理だ。そんなことしたら、お前は脱走するだろう?」
「う………」
「お前の少ない脳みそで考えていることなど、すべてお見通しだ」

最初のお願いは聞き入れてくれ歩くペースを遅くしてくれても、次のお願いは相手にしてくれずしかもあたしの考えを読まれていた。
そしてまた勝ち誇ったように、あたしをバカにする。
そこまでして年に一度の記念すべき誕生日をあたしと過ごしたいって思う東金先輩の考えがまったく分からない。

………ん、誕生日?
誕生日と言えば、やっぱりあれだよね。
東金先輩には日頃からさんざん迷惑しているけれど、多少はお世話になっているし皮肉を含め感謝のつもりでやろう。

「東金先輩、あたしあの店に寄りたいです」

フッとある考え付いたあたしはとある店を見つけ、元気良くそう言い返事を待たず今度はあたしが主導権を握り店へと向かう。
そこはあたしもよく知っているブランドで、臨時収入が入った時にアクセサリーを買っている。

「そんなに引っ張らなくても、行ってやるから落ち着け」
「あ、東金先輩は外で待ってて下さいね」
「外で?逃走する気だろう?」
「出入り口が一つなんですから、出来るわけないじゃないですか?たまにはあたしを信じて下さいよ」

さっきまで逃走しようと考えていたあたしがそう言っても説得力がないと思いつつも、愛想の良い笑顔を振りまきながら信用を得ようと試みる。
それは不気味だったのか東金先輩の顔は引きつり一歩後退するが、 この際だから気にしない。

「ねぇ良いじゃないですか?」
「なら十分だけだからな。十分過ぎたら、店内に入るからな」
「ありがとうございます。じゃぁ行ってきます」

少々短い制限時間だったけれどこの際贅沢は言っていられないため、それでもあたしはお礼を言ってすぐさま店内に飛び込んだ。

チリーン

「いらっしゃいませ」

店員さんはいつものように営業スマイルで出迎えいつものあたしなら軽く世間話をするんだけれど、今日は時間がないから軽く会釈をして目的地に急ぐ。
目的地はアクセサリー置き場。

当初からショッピングを楽しむつもりだったから、お金はいつも以上に持ってきたため予算はこの店であればなんとかなる。

一応あたしの誕生日の時はムーンスターの可愛いピアスをプレゼントして貰っている。
そのピアスがいくらか分からないけれど、土岐先輩のプレゼントの予算と同じ三千円ぐらいの物で良いよね?
どんなのがいいかな?
まぁどうせ使ってはくれずどこかにしまわれるのがオチだと思うけれど、それなりの物が良いよね。
変なのあげれば、後が怖いし。


探すこと数秒あたしは東金先輩にピッタリの物を見つけ、すぐそれを手に取ってマジマジと見てしまう。
所謂一目惚れと言う物である。
黒のベルトにヴァイオリンのチャームが付いた大人っぽいメンズストラップ。
値札を見てみると、セール品で三千五百円。
このぐらいの予算オーバーであればなんの問題もなかったため、あたしはついでに色違いでレディースのストラップを持ってレジに直行する。
深い意味はなく、ただ単にあたしも欲しくなったから。
けしてお揃いを狙ったわけではない。

「こっちだけラッピングして、こっちは普通に包んで下さい」
「かしこまりました。リボンの色は何色にしますか?」
「黄色でお願いします」
「では少々お待ち下さい」

テンポ良く進む店員さんとの会話が終わると、店員さんは手慣れた手つきでラッピングを始めた。
あたしは鞄から財布を取り出し正面の鳩時計を見ると、タイムリミットまで五分以上ある。



チリーン

「東金先輩、お待たせしました」
「時間ピッタリだな。お前らしい」
「えへへ。それよりはい、東金先輩。お誕生日おめでとうございます」

外に出ると待ち構えていた東金先輩から感心される中あたしは気分を更に良くして、早速プレゼントを東金先輩に差し出し誕生日を祝う。

「どうせそんなことじゃないかと思ったが、………ほぉつばさにしては、センスが良いな」

どうやらこうなることを予想していたらしく特に驚くことなく、そう言いながらすぐに包みを開けストラップを取り出す。
でも表情は嬉しそうで、プレゼントした甲斐がある。

「喜んでもらえて嬉しいです。………え?」

そんな姿を見て満足していたあたしだったけれど、予想もしていなかった東金先輩の行動に目を疑いその行動をマジマジ見つめてしまった。

「えって………これは携帯ストラップじゃないのか?」
「まぁそうですけれども………」
「だったらなんでそんな顔するんだ?変な奴」

東金先輩は眉を曲げストラップの意味を問いあたしが曖昧に頷くとそう呟き、あたしの手を再び取り歩き出す。
今度はゆっくりとあたしのペースに合わせてくれ、独り言のような小声でこう囁いたのだ

「ありがとうな。つばさ」




あたしのプレゼントしたストラップは、次の日もその次の日も一ヶ月後も違和感がなく付けられている。



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