短夢堂

□どんなアナタでも
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梅さんと付き合うようになって、今日が実質初めてのデート。


ひと月前の小さなウソは、わたしの一世一代の告白のために、わざわざ公園デートに付き合ってもらったんだった。


別にあらかじめ何を言うなんて伝えてなかったのに、梅さんはわざわざ寮のみんなに小さなウソをついて、寮を空けて来てくれた。


勘の鋭さは、流石だと思う。


だから寮長なんてやっているんだろうけど。


そんな事を思い出しながら、時計を見ると待ち合わせの時間を5分ほど過ぎている。


目印の大時計の前に立ったまま、わたしは改札から途切れる事なく吐き出される人の波を見つめていた。


「デート」の日は、寮を出発するのも別々。


同じ屋根の下に住んでいながら、すごくもどかしい。


でもこれがバレない秘訣って梅さんにウィンクされると、やっぱり何も言えなくなってしまう。


というか、やっぱりこれも梅さんの言うとおりで、ヤケに鼻の利く晃や零にも怪しまれている様子はないし、勘の鋭い冴島先生にもスルーされているから、文句もつけられなかった。


というか、休日を一緒に外で過ごすのがこれで二回目なんだから、まだまだ成果はわからないんだけど…。


本当は…一緒に電車に乗ったりして、他愛もない話をしながら移動したいんだけど。


それは卒業後のお楽しみにとっておくことにした。


お楽しみがあるってわかってるわたしは、諦めが良い。


それが梅さんに褒められたわたしの長所のうちの一つ。


「卒業後のお楽しみ」をいっぱい抱えたわたしは、だから今はなるべく梅さんを困らせないように、いい子で言う事を聞くようにしていた。


待ち合わせの時間からさらに五分。


どうしたかな。


そう思いながら携帯を閉じようとした時、唐突にソレが震えだした。


慌ててディスプレイを見ると、梅さんからの着信。


「もしもし??梅さん??」


『お待たせ。後ろを向いて』


どこか弾んだように言う声につられて後ろを振り返ると、ガードレール傍にピッタリと横づけされた四駆が目に入った。


「梅さん?」


携帯に口をつけたまま、向かいの歩道とかに目を走らせても梅さんの姿は見当たらない。


キョロキョロと探していると、四駆の窓が下がって、そこからヒョコッと顔をだしたのはあろうことか梅さんだった。


「沙也加こっち」


サングラスをかけた梅さんがニッコリと笑って手招きをしている。


「ど、どうしたんですか、この車??」


その手につられた様に走り寄ったわたしは、開けられた窓に手をかけて梅さんに声をかける。


「とりあえず乗って」


含んだ笑い方をした梅さんが、そのまま内側からドアを開けてくれる。


普通の車より少し高くなった四駆に足をかけると、腕を力強く引っ張り上げられた。


「っわ?」


勢い余って前のめりになったわたしを、梅さんが片手でしっかりと抱きとめる。


空いてる方の手でドアを閉めた梅さんは、サングラス越しにニッコリと笑ってわたしを見下ろしていた。


「遅くなってゴメン」


チュッ。


「??!」


オデコに触れた柔らかい感触。


一瞬ポカンとしてしまったわたしを見下ろした梅さんは、ククッと可笑しそうに笑いを噛み殺すと、わたしをそのまま助手席に座らせた。


「とりあえず出すから、ベルトしっかり締めてね」


言われるままベルトを装着するわたしだったけど、梅さんの視線を感じて、引っ張り出してホルダーに刺しいれるという簡単な動作さえスムーズにできなくなった。


オデコに軽いキスを受けただけ。


普段の梅さんなら絶対にしない事をさらっとされて、わたしは早くも理解してしまった。



―――デートならドキドキしなきゃ♪



こういう事だったんだ。


いつもとちょっと違う梅さんを隣に感じながら、わたしは予想外のドキドキに顔をあげられずにいた。



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