短夢堂U
□the rose
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好きになる人はいつだって年上のオトコだった。
初恋は幼稚園の時。
近所に住む高校生のお兄ちゃん。
小学校に上がると、塾の先生とか、コンビニでバイトしてるカッコイイお兄さんとか、フツーにあった。
それは中学に入ってからも同じ。
部活の先輩より指導に当たってくれるコーチとか断然カッコよくみえたし、友達の大学生のお兄ちゃんとかはアタシの射程圏内ギリギリラインだったし。
そう言えば、家になんかの営業でやって来たスーツ姿の「新人」みたいなオトコにも惹かれたコトがある。
要するに、アタシは年上のオトコしか好きになれない。
だってそうでしょ?
同級生の男子って、バカだし、アホだし、何よりガキっぽい。
アタシや他の女子の言葉に一喜一憂したり、つまんない事でムキになったり。
包容力?
そう言うのが無い段階で、もうムリ。
これでも、何人かのオトコとは付き合ったコトある。
同級生や先輩とか…要するに身の丈にあった相手ってヤツと。
けどアタシ、自分がかなりのワガママ女だって事は自覚してる。
だから余計に、ヨユーのないオトコってヤツは嫌だった。
だからまぁ、全てダメにしてきたワケで、今に至るんだけど。
好きになるのは年上のオトコ。
付き合うなら、絶対歳の離れたオトコって決めてる。
大人で、ヨユーがあって、アタシのワガママにも動じないような。
そんなオトコがいい。
イケメンであるっていうのは、不動の絶対条件だけど。
親友のカオリに言わせれば、そんなオトコはジジィくらいだってさ。
けど。
アタシは見つけた。
理想ドストライクの、イケメンで、大人の、ヨユーのあるオトコ。
「お前、まだいやがったのか」
ホラ。
呆気なく見つかった。
ぶっきらぼうな口調とか、ヨレタ白衣とか、全てめんどくさそうな態度とか。
そういうのもひっくるめて、一目で全部好きになった。
「委員会に行っちゃったトモダチを待ってるんですー」
ニッコリ笑いかければ、チッと舌打ちされるけど。
何だかんだで面倒見も良い素敵な「魔王」。
「早く帰れよ。お前最近、寮に戻るのが遅ぇって夏男が言ってたぜ」
「だって、買い物とかお茶したりとか、色々忙しいんです」
高校の入学式の職員紹介で見かけた時からの、恋。
一学年の三分のニが男子でも、やっぱり同級生には目がいかなかった。
先生が好き。
可愛い教え子を、可愛い女って思ってもらうには、トモダチの情報が必要なんだもんね。
ネイルは禁止されてるから、爪はいつもピカピカに磨いて。
髪もトリートメントは欠かさない。
ムダ毛の処理だってカンペキ。
化粧も禁止の校則にはヘドが出るけど、仄かに香るリップとか、日焼け止めとかは許されるでしょ。
そうやって少しずつ少しずつ、ルールの網目をかいくぐって、先生の好きそうなモノやタイプをリサーチして吸収しないと。
呆れたような顔の先生に向かって、それでも笑いかけてみる。
「笑顔」。
先生は「笑顔」が好き。
そんな事をアタシが考えているなんて知りもしない先生は、ククッと笑った。
「ヒマでいいよな。ガキは」
「ガ…ガキって…っ!」
「ガキだろうが」
「ヒドイです!好きな人のために一生懸命なダケなんですっ」
「…はぁ?」
あ。
ついウッカリ。本音が…。
目を見開いた先生が、いきなり吹き出した。
「好きな奴って…っ!クククッ」
「〜〜っ!笑わないでくださいっ」
「だぁっ!ウルセェ!とにかく、待ち人が来たらとっとと帰れ!わかったなっ」
「〜〜〜っ」
かったるそうに教室を出ていく先生の背中を見つめる。
…。
一蹴された。
アタシの好きなヒトが先生だなんて、夢にも思ってないみたい…。
「…なによ」
ちょっとムカつく。
…それでも好きな気持ちは全然減らないから、スッゴク不思議。
「どうやったら意識してもらえるのかなぁ…」
そんな事を思いながら、アタシはまた椅子に深く座り込んだ。
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