短夢堂U
□神蘭☆竹取物語
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神蘭寮は今日も騒がしい…。
「沙也加!いい加減、誰かに決めろよっ」
「亮の言うとおりだ!そうすればこんな争いしなくても済むだろっ!!」
龍海くんと佑くんに詰め寄られても困る。
困ってオロオロしていると榊くんに肩を抱き寄せられた。
「二人とも怖いよ。そんなにおっかない顔してたら沙也加ちゃんが泣いちゃうだろ?」
泣きはしないけど…榊くんの顔、近い…。
別の困惑に身体を固まらせていると、榊くんとは反対側に引っ張られた。
「きゃぁ?!」
ボスンと抱きとめられたのは藤堂くんの胸…!
「一人に決めるなら、俺がアンタの男になる」
真顔で言い切った藤堂くんが宣言するように言い放つと、一瞬だけ静まり返ったリビングはさっきよりもうるさくなった。
「ふざけんな!藤堂!!」
「沙也加の彼氏になりてぇのは俺もなんだって!」
「そーだよ零、それくらいわかるだろ?」
わたしを抱きしめる様にしたままの藤堂くんが小さく笑う。
「俺意外にいないだろ」
「!!!」
「〜〜〜〜」
「だからぁっ!」
一触即発!
ピリピリと張り詰めた空気を緩ませたのは、それまで何も言わずにいた水瀬くんの声だった。
「それくらいにしておけよ」
「水瀬!」
龍海くんの睨みに水瀬くんはため息を吐く。
「…よく見ろ、御堂が困ってんだろ」
そう言ってさりげなく藤堂くんの腕から解放してくれた水瀬くんは、優しく微笑みながらわたしの頭をポンと叩いた。
わたしの彼氏がどうのこうの、という話になったのはこれが初めてではない。
けど、年末を前に学校や街ではイベントが怒涛のようにあるわけで。
それに加えて…
両親の帰国が早まったから、年末には寮を出て実家から通学することが決定していたのだった。
転校はしなくても良いと言われたからホッと一安心だったんだけれども。
それでも寮生のみんなは一つでも思い出を多く作ろうとしてくれていて、色んな誘いを持ちかけてくるようになった。
毎週のようにドコソコの学園祭に行こうとか、ドコソコのパーティーに行こうとか、挙句の果てにはクリスマスの予約までされそうになっているわけで。
その度に適当に言葉を濁してやり過ごしてきたんだけれど…
みんなの我慢も限界だったみたい。
―――じゃあいっそのこと彼氏を決めろ。
と誰かの一言が引き金になって、現在に至る…という感じ…。
でも寮生の中から誰か一人なんて難しすぎる。
彼氏なら寮生じゃなくても良いんだろうけど、彼氏を借りに作ったところでみんなと気まずくなるのも嫌だし。
でもそれ以前に、特定の好きな人っていないから余計に困る。
…みんな平等に好きじゃ、ダメなのかな…。
でもそれに納得いかないからもめているわけで、こうなったら何が何でもわたしが「彼氏」を決めないと収まりがつきそうもない。
水瀬くんも加わった輪は相変わらず「俺が」「いや俺が」と喧しい。
どうしたものかとため息をついたとき、
「ちょおおおっとぉ!あんたたちウルサイわよおおおっ!!」
包丁と大根を握りしめた梅さんがリビングに怒鳴り込んできた。
「夏男!?」
「梅ちゃんっ!」
「!!う、梅、さ…」
包丁の切っ先がわたしに向けられている。
恐怖で硬直していると、梅さんは「あらヤだわ」なんて言いながら包丁を下ろした。
再び静まり返ったリビングで梅さんはわたしたちを一人ずつ見回す。
「で?なんの騒ぎなの??」
藤堂くんが要点だけを簡潔にまとめて伝える。
話を聞いた梅さんは呆れた様に息を吐いた。
「そんな事〜?」
「そんな事っていってもなぁ!俺たちには重要な事だっ!」
「そうだ!いい加減、沙也加が男を決めてくれねぇと、ね、年末の予定が、立てらねぇんんだよっ」
「で、沙也加ちゃんに決めてもらおうにも、困らせるばっかりだしさぁ…」
みんなの視線が一斉にわたしに向く…。
「だって、誰か一人なんて簡単には決められないもん…」
みんながみんな、それぞれに違う魅力があって素敵だし。
でも恋かどうかって言われたら違うんだけど。
言葉に詰まって俯くと、梅さんが「しょーがないわね」と言いながら微笑んだ。
「アタシに良い考えがあるから、アンタたちはとりあえず解散して」
「???」
みんながそれぞれに顔を見合わせて首をひねる。
その様子を見つめながら梅さんはウィンクした。
「沙也加ちゃんが彼氏を決められる方法があるのよ♪」
うふふ。
そう笑った梅さんは、わたしに大根を持たせてリビングから連れ出した。
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