短夢堂U

□どんな俺でも
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地中深くにもぐりこんだ炭素は、地球内部の高温・高圧の環境下で気の遠くなるような時間をかけて、やがてダイヤモンドとなる。


硬いだけが取り柄の鉱石は美しい状態のものが少なく、同じダイヤモンドによって磨かれなければそれも宝飾品としての価値を得られない。


石炭のように黒く固まった俺の感情は、毎年、この時期になると胸の奥で密やかに疼いて、俺を苦しめる。


ダイヤモンドにすらならない。


風化もしない傷跡。


ジリッ…


凝り固まった真っ黒な感情が、俺の胸の中で一回転する。


…はぁ。


やっぱり憂鬱だ。


もう顔を合わせる事はないと分かっていても、楓を見る度に傷痕は疼き、カサブタは剥がされ、心はドクドクと血を流す。


…早く…


早く、過ぎてしまえばいい。











俺は、秋が嫌いだった。













(…あ)


まただ…。


最近、梅さんが浮かない顔をしているのをよく見かける。


人知れずため息を吐き出しているのも、何度か見かけた。


夜になれば「夏男さん」の顔で、庭の隅でタバコを吸っている…。


今も。


どこかぼんやりとした表情の梅さんは、カレー鍋をかき混ぜながら、心ここに非ずといった様子で。


また大きなため息を吐き出していた。





何か、何か悩みがあるなら…言って欲しいのに…


そう思いながら、わたしは影からこっそり梅さんの様子を見つめる。


…子供だから頼りないって思われているのかな…


でも彼女だったら、彼氏を救ってあげたい…よね…?


あんな苦しそうな顔…


見たくないから…




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