短夢堂U
□神蘭☆金の斧、銀の斧
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「あー…どうしよう…」
放課後の教室。
わたしは床に膝をついて、探し物の真っ最中。
鞄の中も見たし、机の中も見たし、移動した先の教室もくまなく探したけど見つからない。
「困ったなぁ…カギないと、部屋に入れない…」
そう、わたしの探し物はカギ。
寮の部屋、わたしの部屋のカギだった。
梅さんに頼めばスペアはあるから借りられるけど、いちいち戻すのもめんどくさいし、盗られて困るようなものも無いから気にしなければいいんだけど…。
「でもやっぱり、カギだし…」
扱いが机の引き出しのカギと同じ程度でも、ないと困る。
だから必死に探しているわけなんだけれども…
「ない〜〜っ」
ゴミ箱をひっくり返してもないって事は。
(…)
諦めるしかないのか…っ!?
そう思って深々とため息を吐き出した時だった。
「おい、御堂」
低くぶっきらぼうなこの声は…
顔を上げると、やっぱりというか案の定というか。
白衣を羽織った冴島先生が、全身から「かったるいゼ」オーラを漂わせながら、そこに降臨していた。
「先生…」
「お前、さっきから何やってんだよ」
カギを失くした事を言うと、先生は少しだけ目を見開いた。
「ほぉ…」
そう言いながら、ゴソゴソと白衣のポケットを漁り始める先生。
「え、もしかして…!!」
拾ってくれてたのか!そんな希望が見えて立ち上がった時…
先生が目の前に差し出したのは…
「え」
車のカギだった。
ベ●ツのエンブレムを象った…というか、どう見ても正規店でしか手に入らないような「あのマーク」のキーホルダーが付けられた、車のカギ。
「お前の落としたカギってのは、コレか?」
「違いますよっ!っていうかどう見ても車のカギじゃないですか!!」
「クククッ、からかったに決まってるだろうが」
「やめてくださいよ。そんな冗談に付き合ってられないんですっ」
膨れながらそう言うと、先生はゲラゲラと笑った。
「んじゃ、これか?」
「…これは…」
最近の新築マンションではよく採用されている…ピッキングに強い(らしい)ディンプルキー…。
「…」
「部屋のカギっていやぁ、コレだろ?」
「…違います。こんな対マンション用のようなヤツじゃないです。っていうか、からかわないでくださいっ!」
「うっせぇな、ギャーギャーギャーギャー。ちっとか静かにしやがれ」
「だって、先生が…」
そこまで言いかけた時。
先生は見覚えのあるカギを目の前に差し出してきた。
「コレだろ」
「あ」
ネコのキーホルダーがつけられた、見慣れたデコボコのあるカギ。
「これ…!」
「やっぱりか。準備室の前に落ちてたぜ」
「準備室?…あ、もしかして掃除のあと…」
「だろうな。走ってきた佑とぶつかっただろ。その時に落としたんじゃねぇか?」
先生に言われて、昼間のことを思い出す。
そうだ。
佑とぶつかって、持っていたカバンの中身をぶちまけちゃったんだった…。
カギを受け取りながら俺を言うと、カギを受け取った手を先生にガシッと掴まれた。
「…?」
「おい御堂」
「はい?」
「これ、何かの話みてぇだな?」
「なんかって…あ、金の斧、銀の斧ですね?」
「だな」
「じゃあ、その車のカギとマンションっぽいカギ、くれるんですか?」
「はあ??何いってんだ?」
「だって、あのお話ってそういう事ですよね?」
正直者のキコリは、結局三本の斧を貰った。
泉の精から。
「やるかっ!コレはコレで落し物なんだよ。…ったく」
再び「めんどくさい」オーラを醸し始めた先生が、大げさにため息をつく。
「ま、正直に答えた御堂には、褒美をやってもいいがな」
「え!ホントですか!?」
ニヤッと笑った先生が白衣のポケットをまた漁り始める。
「ほら、これをやる」
手渡されたのは…
「…カギ?」
どこかの部屋のような…。
「俺の部屋のカギだ」
ニヤリと笑った先生が、アゴを仰け反らせるようにしながらわたしを見下ろす。
「来週、引っ越す。それは引っ越し先のカギだ」
「…!」
「卒業後、俺と一緒に住む特権をやる」
だから。
「そのカギは絶対に失くすんじゃねぇぞ」
そう言って、先生はスタスタと行ってしまった。
「…」
先生の後ろ姿を見送りながら、わたしは思う。
(ど、どういう意味…!?)
おわり
その頃職員室では。
車のカギを捜す武井先生と、
家のカギを捜す教頭先生の姿があったという。
ホントにおわり