短夢堂U
□オトコ目線
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亮の部屋の前を通ると、中から佑の興奮気味な声が聞えてきた。扉も少しばかり開いていて、耳をそばだてなくても、中の話は筒抜け。何気なく足を止めると、亮と佑は何かを見ながら、話をしているようだった。
「やっぱアンナちゃんだよなぁ」
「佑はそういう系が好きだよな…」
「んだよ〜!亮もイイって思うだろ?!顔もカワイイし、髪もツルツルしてるし」
「まぁ、顔は可愛いけどな。俺はそういうタイプじゃねぇな」
ヘラヘラと笑っている様子から、見ているのはグラビア雑誌か何かかもしれない。
男の子ってそういうの、やっぱり好きなのか…。そう思いながら、階段に足を向けた時だった。
シミジミとした佑の声に思わず扉を振り返る。佑は…
「亮は沙也加みたいなのがタイプなんだろ?」
(……え?!)
「バッ!!ちげぇよ!勘違いしてんじゃねぇって!」
「ハハハ!照れんなよ〜」
「照れてねぇ!大体沙也加をそう言う風に見れるかって話だろ」
(…亮…)
亮の気持ちが嬉しくてウンウンなんて肯く。
確かに、亮や寮生にそういう目線で見られても困る。だって、わたしは由紀と付き合ってるわけだし…。
そんな事を思いながらまた階段に足を向けると。
また佑が呟いた。
「だよなぁ。それに……」
「どうしたんだよ」
「……。沙也加の胸、小さいもんな」
(……はい!?)
確認しなくても良いのに、思わず自分の胸を見下ろす。そして、何となく両手で隠した。
(っていうか……恋愛とかは関係なくても、そういうのは見られるんだ……)
年頃の男の子に向かって、ヤダフケツー!なんて思わないけど。……って言うか、年頃の男の子じゃないのに、そういう部分のチェックが厳しい恋人がいるから、何となくそうなのかもなんては思ったけども。
……佑は、わたしの胸が小さい事、チェックしてたんだね……。
変なショックを受けながら、離れようとすると、亮が口を開いた。
「ま、そうだよな。見た目からして、無さそうだもんな、アイツ」
(……)
オッパイだけが女の子の全てじゃないんだけどな。
面白くなくてため息をつく。
扉の向こうで佑が笑った。
「やっぱ、女はムネだよなぁ〜」
「だろ。オトコなら、無いよりある方がいいよな」
すっかりムネがある方が良いと盛り上がる扉の向こう。
その手前の廊下で、わたしは自分の胸を見おろしながら、考えてしまった。
(……もしかして由紀も、ある方がいいって思ってるのかな……)
足音を立てない様にしながら、由紀の事を考える。
由紀がわたしの身体について、何かを言った事は無い。でも痩せて喜んだ時は、渋い顔をしていたけど、少し太った時は、逆にニヤニヤ笑ってたりしていたっけ。
とすると……。
(おっぱい、大きくした方が喜ばれる、のかな)
そんな事を考えながら、わたしは寮の階段を下りて行った。
☆
「……何してんだ、お前は」
「うわっ!??」
用事があって準備室を空けると、戻ってきた時には沙也加が居た。
が。
そこにいた沙也加は難しい顔で自分の胸を鷲掴みし、考え込んだ顔をする。
黙ったままずっとその様子を見ていても良かったが(だってかなり笑える)、入ってきた俺にも気づかないくらいに、ギュウギュウと胸を揉んでいるのを見せつけられれば、それはそれで、美味しい光景が不穏な光景にも見えてくると言う物だ。
「ゆ、由紀……っ」
真っ赤な顔で振り返った沙也加は、慌てて胸に当てていた手を離し、自分の背中に隠す。……何をしていたかなんてバレバレなんだが……。どう突っ込んでやろうかと思いながら近づくと、沙也加は顔を隠すように深く俯けた。
「沙也加ー」
「はいっ」
「質問に答えろ、何を面白ぇコトしてたんだよ」
「っ」
「自分の女が、自分の胸を揉みまくってるってのは、俺に対する挑戦状なのか?あ??」
「そ、そんなんじゃっ」
「じゃあ何なんだ。いつも揉み足りねぇってコトなら、揉み倒してやっても良いんだぜ?」
「…うぅっ」
顔を伏せてはいるが、髪の間からのぞく耳は、湯気が出そうなほどに真っ赤になっていやがる。
ったく。何なんだ、この奇怪で可愛い生き物は。
そう思いながら、沙也加の顔を覗き込むと、羞恥と気まずさで真っ赤に染まった目とぶつかる。沙也加が口を開いた。
「あの、ききたい事があるんだけど」
「なんだ」
「……由紀は……オッパイは、おっきい方が好き???」
「ッブ!」
唐突に何を言い出すのかと思いきや。
噴き出したものの、沙也加の目がかなり真剣だったので、咳払いをしてどうにか誤魔化す。こういう事を聴くって事は、大方寮生に何かを吹き込まれたんだろう。女はムネが命だとか、巨乳こそいい女の証拠だとか。
「……あー、胸のコト、か?」
「うん!」
「なんで気にするんだ」
「……昨日、佑と亮が話してたんだけど……」
昨日聞いた話を話す沙也加を見下ろしながら、俺はあの二人にどんな課題を吹っかけようか考えを巡らせた。
…というか。人の女の胸を見てんじゃねぇよって話なんだが。
話し終わった沙也加が俺を見上げる。
「その、自分でも自覚あったけど、やっぱり無いよりはあった方が由紀も良いのかなって……」
「……」
「由紀??」
「……沙也加」
「はい」
「大きくしたいのか?」
「え!?そ、そりゃ……由紀がその方が好きなら、そうなりたいけど……」
俺としては、正直な話……胸なんてあっても無くても良いんだが。
そんな事を言ったところで、納得するような感じでもない。となると……
「じゃあ、この際だからデカく育乳してみるか」
「ホント?」
「ああ。協力してやる」
下卑た下心が顔に表れたのか、沙也加が心持、後ずさる。が、その分の間合いを詰めながら、俺は続けた。
「そうだな。とりあえず、揉むのが手っ取り早いだろ、後は食事にも気を付けてだな……」
「う、うん」
ジリジリと後ずさる沙也加を壁際まで追い詰めると、俺は逃げ場を失った沙也加を見下ろしながら、無意識に笑いながら言った。
「じゃあ早速、俺が揉んでやろう」
「っ!」
やっぱり!という顔をする沙也加が、両手で胸を覆うが、それを簡単に剥がしながら俺は付け加えた。
「おい、俺が許可出してないときは、勝手に揉むんじゃねぇぞ」
「な、なんで!?わたしの胸なんだから、自主練……じゃなくて、自分でやらないと」
分かってないな、こいつは。
「何言ってやがんだお前は。お前の身体は、俺のモンなんだよ」
さ、手をどけろ!
そう言いながら沙也加の両手を掴み上げた。
「い、いや!ちょっとっ別に良いですっ!話して下さいっ!」
バカだの変態だのエッチだのと喚く沙也加を強引に押さえつけながら、俺は心の中でこっそり思う。
(龍海と吾妻の課題は、沙也加の胸に免じて、出さないでおいてやるか……)
おわり