東の夢
□遠い地
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魔都・上海
「葛ぁ〜」
背後から聞こえる陽気な声。揺さぶられる肩。
「あ、見ろよ。旨そうだな、あれ」
…気にしない、気にしない
葛、と呼ばれた青年は後ろから聞こえる声に振り向くこともなくズンズンと人混みを進んでいく。
「なぁ…おい。何か嫌なことあったのか?昼飯ちゃんと食ったか?腹減ると仕事にならないぞ」
…五月蝿い
しかし、えらく人が多い。
一体どこから湧き出たんだ?と思うほどに。
葛、伊波葛は抜けるように蒼い空を見上げた。昨日は唸るような暑さだったが、今日は幾分かマシだ。
「か〜ずらっ」
背中から手を回された。
葛は立ち止まると振り向き、じとっとした梅雨の時期の空気の様な目で葵を睨む。
葵は人懐っこい犬の様にえへっ、と笑い、「なんだよ〜話聞こえてるなら返事してくれよ」と言うと葛に回した手の力を強め、顔を背中に軽くうずめた。
「やめろ。町なかでみっともない」
「まぁ聞こえてたらいいけどさぁ」
そういうと葵は葛にまわしていた手を放す。
「最近…任務少ないね」
「あぁ…」
任務ーー
最近、全くといっていいほど任務の連絡が来ない。今の仕事は写真館での仕事だ。
「まぁそれもいいだろう」
葛は独り言のように呟くと人混みの中へと足をはやめた。
「あ、待てよ!!」
ーーさぁて、今日は帰ってから何をしようか。仕事を終わらせて・・・、そして・・・。
葛は幸せな自由時間をどうやって過ごそうかと考えに耽った。