東の夢

□遠い地
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桜の花が散る
その様子をひとりの女が見ていた。
彼女の名は『真宮』赤い瞳に、海松色の肩までの短い髪。日本人の顔立ちだが、酷く日本人離れした髪と目である。
軍服の様な上下の服に、黒い長靴。白い手袋、手には軍刀。鞘には鮮やかな装飾が施されてある。首からぶら下げた彼女の髪の色と同じ海松色の石のペンダントは時々、入り込む光に色を変えた。

彼女は桜の花が散る美しい様子を見ながら何かを呟くように口を動かす。

『1931』

とっくに過ぎ去った時代だ、と彼女は微笑む。
あらゆる時を神に祈るだけの日々に送り続けた彼女は空を見上げた。

人が恋しい

彼女の周りは屍で埋め尽くされていた。
彼女が真宮として生まれ、屍を見守り続ける運命を背負わさせられてから何年、何十年、何百年も過ぎた。

私は年をとらない
何百年も此処にいるわ

そう思った時、

ザアザアと風が吹いた。

「あ…」
花が散る。
悲しそうに桜の木を見上げる。

1931

真宮は軍刀を鞘から抜いた。

『私を何処かに連れてって』

今まで何百年もこんなこと思ったこと無かったのに。
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