first flower-【F*F】

□【スイッチ・オン】堂郁
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「きょ、教官は…なんでそんなにすぐ“恋人らしく”できるんですか…」


だって悔しさだって混じる。
自分がずっと、
それこそ高校生のころから思い続けていた相手は、教官で。上司で。

いままで、厳しく育てられてきた。人一倍厳しかった。



それなのに、こうなってみたら信じられないくらいの変わり身の早さで甘い、恋人としての姿を見せられて。



そんなふうに瞬時に対応できるような経験も、スキルも、自分はもちあわせていないのだから。







「おまえ…いい歳した大人が、中学生みたいな付き合い出来ないだろう」




そう言われて、恥ずかしくてうつむいていた顔が一気に冷めた。
私のこの恥ずかしさは、
「中学生」なんだ。





「…すみません。ちょっと、用事、思い出しました」

一瞬で、今日一日、浮かれていた自分を思い出した。
急いで、走って、必死だった自分を思い出した。

ここで、舞い上がっていた自分を思い出した。


それが、恋人のたった一言で、今はもうーーーーーー
惨めな自分の姿でしかない。



早く立ち去りたかった。






顔も見ないで立ち上がろうとした郁よりも早く、堂上の腕が、郁の手首を掴んだ。




思わず泣きそうな顔で振り返った郁をみて、大きな溜息すら聞こえた。



逃げ場すらない。
目をギュッと瞑って、せめてもの自己防衛。






「おまえ…また勝手に勘違いしてるだろう!!!!
この状態で、逃げ出す意味がわからん!


座れッ!

目を開けろ!こっちを見るっ!」






掴まれた手首にさらに力が入って、郁の体は再びベッドに戻ってくる。
それでも、目を開ける勇気はなかった。


しばらくは、堂上も何も言わなかった。








「郁」






しばらくしてからの堂上の声は、やっぱりいきなり、優しくて。



「目を開けろ、、、

俺を、見ろ」







鼻先に気配を感じて、優しい声にも心が緩んで、郁のまぶたが自然と開いた。
ゆっくりと目を開けた先に、堂上の瞳がまっすぐこちらをみていた。



「郁」


「なにがあったとしても、俺の前から逃げるのは無しだ。
俺は付き合う以上は、2人で全てを擦り合わせて一緒にいられるようにしたい。
逃げたらなにも進まないだろう。」






「ご、ごめんなさい…」



気まずさは消えないが、真剣な声と表情に言葉はすぐに出た。






「で、何に逃げた?」



う、と怯んで、
しかし先ほどの堂上の言葉を思い出して、覚悟を決めた。




「わ、私は、精一杯なんですっ…堂上教官みたいに、恋人らしく、すぐに振る舞うなんてできなくて…

いっぱいいっぱいなんですけど、
でもそれって、教官にとったら
中学生みたいなのかな…って…




自分で言葉にすると、さらにはっきりと落ち込みそうだ。
そしてまた伏せられた瞳を覗いて、堂上が続けた。


「郁、
俺はもうこんな歳だし、それなりの経験もしてきてるが…

お前と俺の経験値の話じゃないんだよ。

いいか、
目の前にいる恋人にドキドキしてるだけの関係が俺の築きたい関係じゃない。

俺はお前とこれから一緒にいるために、何をどうやって越えていくかってことを考えてる。
そういう意味で、中学生とは違うんだよ。

どうやってお前を大切にできるかを考えてるんだから、
俺がお前に合わせてはやれないぞ。

お前が「今」の緊張とかドキドキを乗り越えて、
俺のみてる「未来」についてこい。」
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