first flower-【F*F】

□【指輪】堂郁
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どういうわけか、堂上はまっすぐにマリッジリングのお店まで郁を引っ張ってきた。



自分の服にすらそこまで気をつかうタイプではない。
その堂上がこんなお店の場所を普段から心得ているとは思えなかった。




…そのつもりで、考えてくれてたのかな、と思うが口には出さない。




平常を装って中に入るものの、やはりこういう所に入るのは緊張する。
普段自分のアクセサリーを選ぶのにすら慣れない郁だ。


雰囲気にすでに負けそうだった。











いらっしゃいませ、と声をかけてきた女性店員に促されるまま、ソファに腰掛け指輪のサンプルを並べられる。



いかがでしょうか、
お好きなものをお試しください、などと言われてもなかなか困ってしまう。



「どれがいいんだ」




堂上にまで追い討ちをかけられ、なんとか頭を整理しようとする。







「え…と、ごめんなさい。いままで考えてなかったからデザインの方向性とかはぜんぜん決めてなくて」




「ただ…やっぱり傷つきにくいのがいいなぁ」




それには堂上もなにも言わない。というより、堂上はデザインだけ選べば良いと思っていた節さえありそうだった。




よしっ




ちょっと気合いを入れてサンプルを覗き込みながらうーんうーんと悩んでしまう。





と、顔の前に横から差し出された指があった。横に座っていた堂上が差し出した手だ。



思わず堂上を振り向き、顔を見上げた。



「これ」



指さしたのは、
大きなダイヤモンドがついた…リング…



「えっ?」


「これ」



「こ…こんな大きな石っ…結婚指輪にこんなの要らないですよっ…婚約指輪並…婚約指輪は要らないですしっ…




「そうなのか?」


「はいっっっ」






「カミツレに似てた」




カミツレ…あ…ちょっと、花みたいなデザインかな…



「嬉しいですけど…仕事中とかできないし、こんな…おっきな石、私には指輪負けしちゃうし…もっとシンプルなのでいいです」

























それから、
あーでもないこーでもないと決めたリングはシンプルなもの。




ただ、カミツレ、と言ってくれた堂上のことばが嬉しくて、



郁のリングにだけ小さなダイヤの入ったデザインを選んだ。






郁をソファに残し、
堂上が会計に立ったときだった。





「本日はありがとうございます」







今日の指輪選びに付き合ってくれた店員だった。



「とても素敵な指輪を、選んでいただけて光栄です。必ず素敵な指輪に仕上げさせていただきます」




「ありがとうございます」



丁寧な笑顔に、堂上も笑みが浮かんだ。




「それに、奥様もとても素敵でいらっしゃるから…



あの、女性の方が指輪を選ばれるときって、自分の指に指輪が映えるかどうかだけ気にされる方が多いんです。



でも…奥様、あなたの指に指輪をはめて、“これ篤さんに似合う、これは似合わない”って、



あなたのこと気遣ってらしたから…




あまりああいう素敵な方には出会えません」








「そしてあなたも…



奥様が遠慮なさった指輪もこっそりご用意していらっしゃる」





ちょっと含むように、女性は笑った。




これは、どうしても自分が贈りたかった。



カミツレに似た、
この指輪。







「あいつになら似合うと思ってるんです」












自分では指輪負けするといったが、白い細い指にそれはよく映えた。








はやくその姿をみたくて、心が急く。










会計を終え、

満面の笑みを浮かべた郁のもとへまず急いだ。












fin.
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