first flower-【F*F】

□【スイッチ・オン】堂郁
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堂上が基地近くの病院へと転院になってから一週間と少し経ち、
その頃には堂上への見舞いが郁の日課となりつつあった。

業務終了次第、急いで病院へ駆けつける毎日だ。

その労力を労力とも思わず、
むしろ不謹慎にも見舞いが楽しみですらある自分を頭の片隅でたしなめつつ、
病室のドアをノックする。



「どうぞ」
と答えられた声に喜び勇んで中へ踏み入った。




そして堂上の顔をみた瞬間、勇み足は何処へやら、あっという間に自分はどんな顔をしていれば良いのかわからなくなり、
うつむく自分を隠し隠しパタパタと動き回る。
そんな風にして照れ隠しするのがいまだに精一杯だった。


体温の上がる顔を隠すのを兼ねて病室を片付けたり、差し入れの品を用意したりしていた郁を堂上が呼んだ。

「郁」


はい、と振り返ると
自分のベッドの端をポンポンと叩きながら「座れ」と続けられる。


堂上がこの合図をした後は、
もう照れ隠しが通じない。



覚悟を決め、おとなしく横に座るものの、堂上には背を向けて随分と正しすぎる姿勢で腰掛けてしまった。





「おまえ…座れって、そういう意味じゃないだろう」

背後からため息混じりに投げかけられ、背筋はさらに緊張してしまう。


「わ……わかってます!
わかってますが…幾分不慣れなもので…」


そう答えた郁に、
わずかな間の後、堂上の右腕が前から腰へと伸びてそのまま郁の体を引き寄せた。

少しバランスを崩し、
手をついた拍子に郁と堂上の視線が至近距離で絡まった。




「いつになったら慣れるんだろうな」




思考停止中、その体勢から動くこともできない郁に、堂上が言う。


うわ だめだ。
その顔は反則です。

困った奴だな、て表情をしながら
笑う、その中に伝わるんです。
私のことを愛おしんでくれているという優しさが。

いままで真っ直ぐ真っ直ぐにしかぶつかってこなかった私たちの間に、そんな表情は本当に…反則です。
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