first flower-【F*F】

□【あの時から二人】堂郁
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その日、仕事が早く終わったのは郁の方だった。

堂上が部屋へ帰ると、すでに料理の香りがするキッチンから郁が駆け寄ってくる。


エプロンで濡れた手を慌てて拭きながら、だ。



「篤さんおかえりなさい!」




廊下と玄関には10センチ程の小さな段差があった。


普通に立っての状態で身長差のある郁には、この位置からだと更に差を開くことになる。



だが――――――――




今ではそれもあまり気にならなくなっていた。



職場の緊張の場から、
この家に帰ってくる。

そこにあるこの笑顔に対して、昔からのコンプレックスはとるにたらない些細なことになってしまった。





「ただいま、早いな」



しかし靴を脱いで上がるころには郁は料理の元へ忙しく戻っていく。




「今日はうちの班の訓練、なかなかの出来だったの!だから居残りもなし!手塚の班には絶対に負けないんだから〜!」



声だけをキッチンから自分に投げてくる妻の様子に思わずフッと笑いが湧いた。


いまではもう、長い付き合いと言える仲間のことを、未だライバル視するところが“らしい”というか――――――。





「いい臭いがするな」


自分の元を去った妻の元へ今度はこちらから顔を出す。




「スペアリブの赤ワイン煮込みに挑戦中です!」













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