first flower-【F*F】
□【指輪】堂郁
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「あっ…あのっ…」
手を引いて先に歩く堂上を、郁は焦りながら呼び止めた。
すると、今まで強引に手を引っ張って歩いていた堂上が急に足を止め、
郁は堂上の背中にそのままつんのめる形になった。
「なんだ」
「あのっ…指輪…ほんとうに今からですか?」
さっきまで二人はカフェにいた。
そして、それまでの間、一緒に暮らしたいとさんざん駄々を捏ねていた郁に、「そんな金があるなら結婚指輪がかえるだろう」と堂上が一蹴したのがつい先ほどである。
そのまま手を引っ張られ、ここまで来たのだが…
「不満か」
立ち止まり、振り返った堂上が一言述べる。
「いえっっ…決してそんな…でも急でなにもわからなくて」
戸惑う郁に堂上が続けた。
「いいから、ついてこい。
お前がいままでうるさいから、こっちだって一緒に暮らす妄想は広がってんだ。いまさら逃がさないからいまのうちに捕まっとけ」
捕まっとけ、というのはどうやら指輪のことらしい。
指輪をした郁が、俺のものだ、というそういう意味だろうか。
普段そんなことをいわれたことはない。
同じ職場で働く以上、周囲を優先した態度を心がけている二人である。
そんな中で郁が堂上のものであるという主張を身に付けること、
それには一層の意味があることに思えた。
結婚て、こういうことなんだと胸に溢れる気持ちが止まらない。
「は…い」
短い返事をして、また手を引かれて歩き出した。