storyX 『紅の螺旋』(連載中)5/22up

□第8章 忍び寄る影
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目立たぬように人の入りの少ない酒場を選んで、テーブルについた。
LRことLost Rusty roseは、自分の気持ちの整理をつけようかと考えていた。
そのためには一度フィオーレから出た方がいいのかもしれない。
どうして自分はこの国に留まっているのか。
いくつかの古代魔法の闇取引を阻止したくらいで、自分がやってきた過去が消えるわけでもない。
『魔女の罪』のメンバーたちのように恩赦を受けたわけでもない。
アクノロギアに怯え、あの時ほんの幾ばくかの魔力をメルディに託すことしかできなかった自分に、今さら何ができるというのだろう。

枯れた薔薇を残してみたり、魔法薬をポーリシュカに渡してみたり、誰も自分の名前など呼ぶことのない世界で。
『妖精の尻尾』の魔導士に呼び止められて胸の奥が高鳴った、自分のそんな浅ましさが情けなかった。
優しさを求めているのか。
誰かに自分の存在を知ってほしくて。
自分の名前を読んでくれるかもしれない誰か。
それは、他の誰でもない。
かつて『悪魔の心臓』でともに過ごしてきたメルディ以外にいなかった。
メルディの口から『魔女の罪』に誘ってもらいたいのか、オレは。
そんなに弱く寂しい人間なのか。
たとえそうであっても、自分など『魔女の罪』へ加入できる身分ではないと、LRが頭を振った。
そこへ男の明るい声が耳に入った。

「オイ、アンタ」
「なんだよ、兄ちゃん」
金髪の男の後ろ姿がLRの席から見えた。
「さっき、婆さんにとなり街の教会から来たって寄付を頼んでただろ」
「見てたのか」
「見てたし、嘘だってわかってっから。預かった金、出せよ」
「はあ?何言いがかり付けてんだ」
「ふざけやがって。やんのか、コラ」
テーブルには二人組。
声をかけたのは金髪の男、一人。
二対一。
「オレっちの眼はごまかせねぇんだっての」
目を見開いたのはLRだった。
金髪の男の顔が見たい。
この男は・・・・・・!?
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