storyX 『紅の螺旋』(連載中)5/22up

□第6章 分かれ道、迷い道
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それだけではない。
ガジルにとってレビィとリリーは今やチームであり家族だった。
だからこそ、つい「オレたち」という言葉が口をついて出たのだろう。
もちろん本人は無意識だろうが。
また、髪の滅竜魔導士と連れのエクシードといえば、『妖精の尻尾』の魔導士とわかるくらいにはガジルもそこそこ有名だった。

「知識とは若さと引き換えに周りの声に耳を傾ける余裕も生まれた結果、年長者にもたらされる側面もある」
「ああ?」
男のまわりくどい話し方にガジルが眉間にしわを寄せた。
隣の部屋で耳を澄ましていたレビィが思わず口元をゆがめる。
ややもすると短期な夫の態度が目に浮かんだのだ。
火種にならなければいいけどとレビィが案じていると、ガジルがまた率直な言葉を重ねた。

「年長者ってアンタがか?」
「カタルシスを感じるほど、もう若くもない」
「ああ?なんだよ、カタルシスっての」
「ガジル、ちょっと黙ってな」
業を煮やしたポーリシュカさんが口を挟んだ。
そもそも口を挟んだのはガジルだったが。
「チッ」
「この薬は買い取るよ。よそに回されて間違った使い方をされても困るしね」
「話がわかる薬剤師どので助かる」
「けど、こんな魔法薬、値段のつけようがないね」
「心配は無用。これは引き取ってもらえれば、それでいい」
「ああ?タダで持ち込んだってことかよ」
黙っていろと言われたガジルが再び口を挟んだことに気を悪くするでもなく、男が即答した。
「そうだ」
「太っ腹だな」
「本来オレの持ち物ではない。それに」
「それに?」
ガジルもポーリシュカさんも男の言葉の続きを待った。
「幻の世界の虚しさはよく知っている」
男はさっさとポーリシュカさんの薬室を出ていこうとした。

「ちょっとアンタ、お茶でもどうだい?」
「まだ『妖精の尻尾』とお茶を飲める身分でもないさ」
「そんな身分なんざ、はなっからねェぞ」
ガジルも誘った。
「・・・・・・時のアークか」
「え?」
男はそうつぶやくと誘いに応えず薬室を出て行った。
隣の部屋ではレビィ、アンナ先生、一夜が顔を見合わせていた。

「ガジル、前にあの男と戦ったのかい?」
「記憶にねェ」
「レビィにも入ってもらっとけばよかったねぇ」
ポーリシュカさんが溜息をついたが、後の祭りだった。
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