storyX 『紅の螺旋』(連載中)5/22up

□第2章 枯れた薔薇
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「オレの地獄耳とお前の生体リンクはある意味、魔法の質としては同系のような気もするがな」
「えっ?」
「なるほど」
メルディが理解するよりも早く、ジェラールはエリックの言葉の真意を飲み込んだようだった。

「人の気持ちを知るっていうこと?」
「ああ」
「言われてみればそうだね」
「だが、魔法自体はそんなやさしいもんじゃねぇ」
「うん」
他人の心の声が聴こえるという能力のせいで、エリックは苦い思いもたくさんしてきた。
聴きたくもない声が聴こえる。
知りたくもないことを知る。
重なる声に気が狂いそうになる。
能力を知ると、相手は怒り不気味がって心を閉ざした。
自分の魔法を完全に使いこなせるようになるまで、精神が血反吐を吐くような日々を過ごした。
身体にかかる負担も相当なものだった。
エリックがやや小柄なのは魔法のせいではないかとジェラールも思ったほどだ。

同様にウルティアがメルディの成長がうれしかったと話したことがある。
いつかのようにメルディが眠った夜など、焚き火を前にウルティアはおしゃべりになった。
「あのまま『悪魔の心臓』に居たら、メルディは大きくなれなかったような気がするの」
ゆらゆらと揺れる炎が温かい。
そのそばで安心したように眠るメルディ。
「心も身体も闇に蝕まれて」
「・・・・・・」
「わたしは根が腐っているから、闇に喰われるような心配はいらなかったけれど」
ウルティアが笑う。
「腐ってなんていないさ。きみは母親に護られていたんだ」
「そうかもね、グレイも同じようなことを言ってたわ」
「そうか」
「魔導士は寂しがり屋で人恋しいのかしら。魔法は誰かを護るために使うのがいちばん正しい使い方なのかもしれないわね」
「では、我々のやろうしていることは正しいな」
「そうね」

ウルティアは『悪魔の心臓』での日々をメルディの前では語りたがらなかった。
それでもジェラールと二人になると決まって昔の話をよくした。
メルディもまたウルティアと一緒にいた時は『悪魔の心臓』でのことを殆ど語らなかった。
もちろん二人にとって、触れられたくない過去だったからだろう。
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