storyX 『紅の螺旋』(連載中)5/22up

□第1章 海岸線
2ページ/3ページ


「オレは・・・」
ジェラールは即答を避けたが、すぐに答えを出した。
「そうだな、オレも行くことにしよう」
エルザにもヒスイ陛下から恩赦を受けたことを伝えなければ、と気づいたのだ。
「私は『剣咬の虎』へ行ってこようかな・・・」
ジェラールが赤くなりながら素直になる隣で、ソラノがぼそっとつぶやいた。
「オレも『妖精の尻尾』に行くぜ」
つぶやきをしっかり聞きとっていたエリックも同調した。
噂ではエリックも『妖精の尻尾』に彼女がいるらしい。
「ズルいゾ、コブラ」
「その名前はもう捨てたんだ」
「フン」
ぷうとふくれるソラノもまたエンジェルという名前を捨てたらしい。
「妹に名乗ってやんのか?」
レーサーがソラノに聞いた。
「・・・・・・」
黙ってソラノがうなずく。
「デスネ!!」
リチャードがソラノの思いを肯定した。
「天使が舞い踊っていそうなお天気デス。貴方の門出にふさわしい」
「天使の門出だってよ、エンジェルだもんな」
「ソラノだけじゃない。オレたちみんなの門出だ」
ジェラールが自分にも言い聞かせるように言った。


ソラノが『剣咬の虎』で温かく迎え入れられるのを見届けた後、ジェラールとメルディ、エリックは『妖精の尻尾』に向かった。
ソラノが恩赦を受け、ユキノと再会できたことが、三人にはうれしくもありそれぞれの心を勇気づけることになった。


エリックが『妖精の尻尾』のキナナといつの間に付き合うようになったのか、それはジェラールもメルディも知らなかったが、深く詮索することはなかった。
それぞれが心に秘めた想いには、触れられたくない過去が関係していることはお互いに承知していたから。
「いい人だよね、ヒスイ陛下って」
「ああ」
いい人などという言葉で片付けてしまっていいものかどうか、一瞬悩んだもののジェラールもメルディの言葉に同意した。
ウルティアとメルディに救い出され『魔女の罪』に加入してからの付き合いの中で、ジェラールはメルディの過去を少しずつ聞いて知っていた。
メルディは明らかに闇の魔法の被害者だった。
幼い頃、村を焼かれ、家族を殺され、その首謀者である『悪魔の心臓』の幹部に拾われた。
その後生体リンク魔法を身に付けた。
それだけだ。
もちろん愛するエルザを幸せにすることが、ジェラールの生きる第一の意義だったが、
それと同じくらいメルディにも幸せになってもらいたいと考えていた。
昔はこんなふうに笑顔を見せる子どもではなかったと、ウルティアやジュビアからも伝え聞いたことがある。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ