story U 

□既望
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獣の匂いに気づいて、匂いのする方を目でたどると、舌を出した狼がそばでガジルを見据えていた。

<俺の血の匂いを嗅ぎつけてきやがったのか?俺に襲いかかるつもりなのかよ>

ナツとの一戦で使い果たした自分の魔力はまだ戻ってはいなかった。
ガジルは、自然の闇の中にいる自分の状況を悟った。
オオォーーン・・・
狼が闇に向かって遠吠えをする。
仲間を呼んでいるのだろうか。
狼は後ろ脚を下ろすと、何かを待っているかのようにじっとして動かなくなった。
身じろぎすらできないまま、ガジルはじっと狼と対峙していた。

しばらくして、岩場が崩れ小石が落ちる音にガジルが反応したときのことだった。
「ほほぉ。今宵はこのようなところで、自分以外の人間に会うとは。ほんに満月には予期せぬことがおこるものじゃて」
ぼろぼろのマントをはおった老齢の男が岩の上からガジルを見下ろして言った。

「わしは旅の占い師じゃが、お主は人間か?」
「当たり前だ!」
「しかし狼に情をかけられる人間はなかなかおるまいて」
「情けだと?」
「その狼がわしを呼んだのじゃよ。おそらくお主を救う必要性を感じてのぉ」
「俺を救うだと?」
「・・・救いなど要らぬとばかりに威勢のよいことじゃの。しかし救うのはその傷ついた身体の方ではのうて・・・」
占い師を名乗る老人は、手で拳を作って自分の胸を叩いて言った。
「お主の心じゃがの」
「!」
会ったばかりの薄汚い老人の言葉に、ガジルは驚きを隠せない。
老人は皴だらけの顔をくしゃくしゃにしてほほ笑みながら続けた。
「とはいえ、わしにお主の心を救うほどの力はない。しかし、お主の心の中の誇り高きドラゴンの血を呼び覚ますことはできよう」
「な?」
自分が滅竜魔導士であることを読みとったらしい老人の眼力に、さらにガジルは驚いた。

「驚くほどのことではない。荒野で暮らす孤高の狼が畏れるものなど、ドラゴンをおいて他にはおらん」
老人が何を言っているのか、何か知っているのか、魔力もまだ戻らず、傷も癒えないガジルには、これ以上考えることはできなかった。
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