頂き物 (お話)

□月が綺麗ですね
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 月が綺麗ですね 1/2





※Present・貴方への想いを握り締めての設定を引き継いでいます。
ナツ→洋菓子店妖精の尻尾のバイト
ラクサス→洋菓子店妖精の尻尾の跡継ぎ
ザンクロウ→鳶職新人
メルディ→中学生
※現パロ




クリスマスも終わり、新年を迎える準備が始まる。
そして、母子家庭で忙しいメルディの家を助けるのは毎年の恒例行事。
ザンクロウが珍しく深く悩む珍事はこの時起こった。

「月が綺麗ですね」
「へ?」

吐き出す息が真っ白に染まる夜空の下、隣を歩く桃色の髪を揺らす少女が微笑んだ。
言われて空を仰ぎ見る。
分厚い雲がひしめく暗い空からは、羽根のような雪がちらほらと舞い落ちていた。
パチパチと瞳を瞬かせて首を傾げる。

「月?」
「うん、月が、綺麗ですね。……じゃあザンクロウ、またね!今年もありがとう!」
「あ、おぅ、またな」

月なんか見えないのに。
疑問を口にする前に、メルディは太陽のように笑い、足早に玄関を開けた。
はらはらと舞う雪が金髪に積もる。
動けずにいたザンクロウも、メルディの家のリビングに明かりが点った瞬間に、思い出したように我が家へ足を向けた。







洋菓子店妖精の尻尾も年末最後の営業日。
大晦日を翌日に控えたショーケースは殆どが売れ切れ、店内の客は既に一人。
無造作に跳ねる長い金髪が目立っていた。

「何だよそれ…なぞなぞ?」

レモンの風味が利いたチーズケーキと、甘酸っぱい苺の載ったショートケーキを箱に詰めながら、バイトのナツは眉間に皺を寄せる。
色とりどりのケーキが並ぶケースの向かい側には、これまた眉間に皺を寄せたザンクロウ。
数日前の、メルディの不可解な言葉を相談がてらに来てみたのだが、知力がほぼ同等のナツにもなぞなぞ程度にしか考えが及ばないらしい。
相談する相手を間違えた。
無意識の内にザンクロウの口からため息が漏れる。

「お前に聴いた俺っちがバカだった…」
「うっせぇ!露骨に顔に出すなよ!!」
「あの後メールで聴いてみても教えてくんねーし…なんだってばまったく」
「無視か」

メルディは博識だ。
それはもうお世辞でなく本当に。
成績だって学年トップ、高校は有名な進学校に進むとか。
名前を書けば受かるような不良高校を出たザンクロウには、遠い遠い話に聞こえた。
メルディが離れてしまうような、そんな寂しい感覚も、おそらく気のせいではない。

「月が綺麗ですね…」
「何なんだってば、月が綺麗って…」
「テメェら気持ち悪ぃな…男同士で何言ってんだ」

厨房の片付けを済ませたラクサスが、二人のやり取りに顔を歪ませた。
同時に、言うんなら女に言ってやれ、と意味深な一言。
目敏く反応したザンクロウはショーケースに両手を張り付けてラクサスに迫った。

「あんた知ってんのか!!」
「ラクサスってこう見えて頭良いんだぜ。こいつさ、あのピンク色の髪のメルディって子に言われたらしいんだ」
「……………女に言われたのか。見かけによらず大胆なんだなアイツ」
「だから、どう言う意味なんだってば!!メルディは俺に教えてくんねーんだもんよ!!」
「そりゃ教えらんねーだろ…それはなぁ」

呆れたようにラクサスがため息を吐く。
その後、ザンクロウの絶叫ともとれる叫び声が、妖精の尻尾に響き渡った…。
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