頂き物 (お話)
□予感・番外編2
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鳶職人の休日は短い。
しかしその分、やる気と体力さえあればかなりの収入を得る事ができる。
グリモア工務店の若き鳶職人・ザンクロウにとってもそれは例外ではなかった。
彼の正月休みは三が日で終わり、明日からはまた厳しい現場に出なければならないのだ。
その束の間の僅かな休日、彼は高校時代の先輩であるウルティアの家に入り浸り、自分のアパートにはほとんど寝に帰るだけ・・・という生活を送っていた。
ザンクロウの目当ては、ウルティアの養子のメルディ。
隣で仲良くおせちの残りをつついている、10歳も年下の桃色の髪の少女であった。
初めてウルティアに彼女を紹介された時、彼の心には小さな小さな一輪の花が咲いた。
メルディが笑いかけてくれるたびに、一つ、また一つとそれは増えていった。
メルディの心に触れるたびに、綺麗な水が湧き、やがてそれが川になった。
こうして、灼熱の砂漠のようだったザンクロウの心の中に、いつしかオアシスが現れたのだった。
こたつのテーブルの上に所狭しと並べられたおせちは、自らも親の愛情をほとんど知らずに育ったウルティアが、メルディに不憫な思いをさせまいと腕によりをかけたものだった。
それも残り少なくなった今、ザンクロウは手持ち無沙汰に箸を弄んでいた。
そんな彼の目の前に、向かいに座っていたウルティアが突然何かを突きつけた。
よく目を凝らしてみると、一枚のハガキに「スバルお客様感謝フェア!!」というポップな文字が踊っている。
「ウルティアさん、これ・・・。」
「仕事の縁でね・・・年末に来てたのよ。アタシには必要ないけど、あなたは興味あるんじゃないかと思って」
「マジで!?・・・ってか、これ今日までじゃねえか!こうしちゃいられねえってぇ!!」
ザンクロウは慌てた様子で言うと、突然メルディの手を取って立ち上がった。
「えっ、な、何?車を見に行くの!?」
戸惑いながらも、素直に後に続こうとする姿が何ともいじらしい。
「おうよ!!見てなメルディ、ピッカピカの格好いい新車の助手席に、一番に乗せてやるってよぉ!!」
実は、メルディと出会ってから人が変わったように仕事に打ち込んできたザンクロウには、ある程度の蓄えができていた。
始めは「内緒で新車を買って、メルディをビックリさせてやろうか?」とも考えていたが、元来気の長い方ではない彼は、ディーラーからのハガキを見て、いてもたってもいられなくなったのだった。
「ちょっと、まさか今すぐに買う気!?落ち着きなさいよ、まずは手頃な中古っていう手もあるんだし・・・。」
「・・・は、中古!?ありえねぇ。いくらウルティアさんでも、これだけは譲れねぇって!!」
身支度もそこそこに二人が出ていった後、ウルティアはやれやれと溜息を吐いた。