story

□forget-me-not
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季節は春。
ある晴れた日のお昼前のこと。
ガジルがギルドで食事をとろうと歩いていると、
花屋の店先で花束を作ってもらっているロキに会った。

「やあ、ガジル。こんにちは」
「てめぇ、そんなにいっぺんに花束買ってどうすんだ?」
ロキは色とりどりの花束をいくつも抱え、
さらにまだ花束を作ってもらっていた。
「ああ、これ?いつもお世話になっているギルドの女性陣にあげるんだよ」
「へぇ」
ロキはにっこり笑って続けた。
「僕も最近知ったんだけどね、今日は男性が日ごろお世話になっている女性に花束を渡す日なんだそうだよ」
「そんな日があんのか?」
「う、うん。お花屋さんの陰謀・・・とまでは言わないけど」
店員の手前、ロキは小声でガジルに説明した。
「でも、いいことだと思うよ。きっとみんな喜ぶしさ。僕たち男としても、女性の幸せそうな笑顔が見られるっていうのは、いいものだろう?」
これまで数々の女性のハートをわしづかみにしてきたロキのウィンクに、さすがのガジルもたじろいだ。
「まァ、うまくやっといてくれ」
ガジルが立ち去ろうとしたとき、
「なんだ、ガジル。レビィに花を用意しにきたんじゃなかったのか」
ロキがはなった一言に、ガジルはがばっと振り返った。
「!!」
「そんな顔しないで。レビィの分は君に任せるから、頼んだよ」
ロキの一言にすっかり固まってしまったガジルを置いて、ロキは支払いを済ませるとさっさとギルドへ行ってしまった。


男から女に花を贈るだァ?
なんだよ、それ。
そんな習慣、聞いてねーよ。
ロキのヤツ、ハッタリじゃねェだろうな!
俺があいつに花を贈って、それって。
あいつも今日がそんな日だって知ってんのかよ?
知らねェのは俺だけかよ?
マジかよ。
マジで花なんか買うのかよ?
俺が?


ガジルは、眉間にしわを寄せて腕組みをしながら花屋の前でしばし考えこんでいた。


あいつも花もらったら喜ぶのか?
だいたい、周りがみんなもらってんのに
自分だけもらえなかったら・・・

「そりャつれェよな!」
突然、ガジルは独り言をつぶやいた。

いや、待てよ。
どうせジェットとドロイがでっけェ花束用意してんのに、違ェねェ!

「くそっ!」
って、なんで「くそっ!」なんだよ、俺。

今ごろ、ギルドでロキが花束配ってんのか?
俺は、腹減ってんのによ!
花なんてどうやって選ぶんだよ?

とうとう見かねた店員が、ガジルに声をかけた。
「あの、お客様?どんなお花をお探しですか?」
「あ、いや・・」
「女性の方に贈るお花でしたら、いろいろとご用意させていただいているのがございますが」
店先には、先ほどロキが抱えていたような
色とりどりの美しい花束が何種類も用意されていた。
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