storyY ザンメル部屋 2022.1/25up

□sweet kaleidoscope
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望遠鏡のような筒を光にかざしながらくるくると回すと、丸く囲まれた小さな世界の中の彩られた景色が次々に模様を変えた。
回すスピードで現れる模様の大きさも異なり、まるで自分が世界の色彩を作り出しているかのような錯覚になる。
一度見ると誰もがその美しさの虜になった。
万華鏡というのだそうだ。

マスターハデスが、どこかの街の腕利きの職人が拵えたらしい古い万華鏡をメルディに与えてからというもの、メルディもすっかりその虜になった。
「ね、綺麗でしょう」
ザンクロウに無理矢理見せては、賛同の言葉をねだった。
「ま、まぁな」
メルディの緑の瞳のほうがよっぽど綺麗だと思うけど、などと言ったところで喜ばないのはわかっていた。
「今は万華鏡の話をしてるんだよ」
と冷たく怒られるのがオチだ。
自分よりも随分と年下のこの小さな女の子に。

「マスターの部屋にはいろんな国の万華鏡があるんだよ。知ってた?」
「知らね」
マスターハデスの自室に軽々しく入れるのは、ウルティアかメルディくらいだ。
「今度、ザンクロウも一緒に見に行ってみようよ」
「そうだなァ」
万華鏡になど全く興味はないが、せっかくのメルディからのお誘いなので、その気持ちはありがたく受けることにしよう。
「綺麗だなぁ」
戦艦のリビングのふかふかのラグに寝転んで、くるくると万華鏡を回しながら、メルディはその小さな世界にずっと魅入っていた。


その日、街の偵察などという地味な仕事に渋々出かけたザンクロウは、あるものを見つけた瞬間、今日の仕事を命じてくれたウルティアに感謝したい気持ちになった。
「マジかよ」
店先に飾られた商品に目を凝らすザンクロウに中年の女性店員が話しかけてきた。
「綺麗ざんしょ、お兄さん。お土産にいかがざんす?」
看板は和菓子屋。
ということは、これはつまり・・・・・・
「和菓子に見えないざんしょ」
ザンクロウの心の中を見透かしたように店員が言葉をかけた。
「ウチの店のオリジナルざんす」
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