他ジャンル小説 2023/1/22 

□ずっとそばに
1ページ/3ページ


貴方が負ける日。
そんな日は、ずっと来ないと思っていました・・・・・・。
いいえ。
本当はずっと前から、私はその日が来るのを知っていたのかもしれません。
でも、なるべく考えないようにして、そんな不確かな胸さわぎは心の隅に追いやって、ただ貴方の後ろを着いて歩いてきました。
貴方は私の生きる道しるべそのもの。
貴方がどんな過ちを犯そうと、私は生まれたときから、死ぬまでずっと貴方の侍従。
ずっとそばにお仕えするのが、当たり前なのだと、信じて疑わなかったのに。


ティンこと、クー・ファン・シーマ王子が自死を遂げた後、
スエインは故郷、イーミュリー王国に帰還する道を選んだ。
国元は、親殺しの狂王子の処分に困り、その身をAKDに丸投げした後、後を追ったスエインの戸籍も抹消した。
とはいえ、代々イーミュリー王家の侍従を務めたパルウ家にとって、スエインの戸籍を回復させることなど大した問題でもなかった。
しかし、シーマ王子本人は、ミラージュ騎士団のグリーンレフトのNo.3、ティンと名を変えた時点で、既にその存在は亡き者として鬼籍へと葬られていた。
AKDから正式にシーマ王子の自死の知らせを受けた王も、ただ一言、
「そうか」
と安堵に似た声を漏らしただけだったという。
イーミュリー王国の王家の墓所の一画に主なきシーマ王子の墓がある。
四季折々の花々と緑に囲まれたそこに佇むと、美しさのあまりため息の出るほど。
この歴代の王が眠る由緒ある場所に、シーマ王子がいないのは、スエインにもわかっていた。
しかし、そこに向かい彼岸の彼方にいるであろうシーマ王子へ思慕を傾けることでしか、スエインは日常を守って生きる術をもたなかった。

手向ける花はいつも違った。
花になど、興味を示さない主だったが、スエインが花を愛でる姿をいつも黙って見つめていた。
「この花は水仙といって・・・」
「冬から春先に咲くのであろう、毎年同じことを繰り返すな」
興味なさげな風を装いながら、ティンは一言一句、スエインの言葉を聞き漏らすことをしなかった。

それは、紛れもなくティンがスエインにだけ見せた真心だった。
しかし、自分を置いてあっけなく彼岸へ旅立っていったティンを、憎らしいと思ったこともある。
本当に勝手な主だと、何度思ったことか。
罪のない小鳥を焼き、街の荒くれ者の心臓を吹き飛ばす魔導士。
それでもスエインは、そんな主を静かに慕い、深く愛した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ