他ジャンル小説 2023/1/22 

□居候はギター
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町屋の戸口を開けると、待ち人が晴れ晴れとした笑顔で立っていた。
「よっ」
「あ・・お、おかえり・・・」
目の前に現れた光に向かって、おかえりという言葉があっているのかどうか、急に恥ずかしくなって利人が頬を赤くした。
利人にバイクで来るのは心配だからやめるように言われた光は素直にも夜行バスに乗って京都にやってきた。
前夜22時に横浜を出発し、翌朝6時には京都に着いていたという。

「快適だったよー。座席も広いし、足延ばして寝られるし。
ぎりぎりまでバイトしてたけど、バスで寝たから元気」
「そう・・・」
よかった、とは素直に口にできないものの、それでもほっとしたような利人の顔を見て、光が口元をほころばせた。
新幹線はちと高いが夜行バスならなんとかなる。
この顔が見られるなら次からもそうしようと光は心に決めた。

「光、それ・・・」
土間から部屋に上がり二人して畳に腰をおろしていたとき、利人が光が背負っている荷物を指差した。
「あ、うん。利人がさ、大学行ってる間とかに練習しとこうと思って」
「ああ、なるほど」
光の仕事道具であるギターだった。
ミュージシャンとして生きていこうとしている光にとってギターの腕前をあげることは必定。
「そういえば、お前がギターの練習をしているとこなんて見たことなかったな」
「へへ」

かつて、
「佐条の前では特別かっこつけてんだ」
と話していた光のことだ。
きっと見えないところでは必死にギタリストとしての研鑚を重ねていたのだろう。

「でも、ウチにはアンプないけど?」
「へぇ、利人、アンプなんて知ってんだ」
「それくらい知ってるさ」
むっとした顔で利人が答えた。
音楽のことなどわからないが、光の弾くエレキギターの仕組みくらいはネットで調べたことがあった。
「練習くらいなら、これで出来るから」
そういって光は携帯よりも少し大きめの機械を取り出した。
「なに、ソレ」
「ん、アンプラグ」
土間から畳へ上がり、ケースからストラトを取り出した光が細長い指でギターにアンプラグと呼んだ機械を取り付けた。
さらにアンプラグにイヤホンをつけ、あっという間にチューニングを済ますと、
「ほい」
イヤホンを利人に渡した。
利人がイヤホンを耳につけるのを確かめてから光がストラトをつま弾き始めた。
「わ!」
目を丸くする利人を横目で見ながら、光が得意のフレーズを奏で始めた。
曲名まではわからなくとも、利人にも聞き覚えのある曲だ。
すでにプロのギタリストの端くれとしてフランスの音楽フェスに参加したほどの光のギターに利人はうっとりと耳を傾けた。
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