storyX 『紅の螺旋』(連載中)5/22up

□第7章 木と神と供物
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第7章 木と神と供物

男はあの島を出てからというもの、自分の名前を知る者も、呼ぶ者もない世界で生きてきた。
時折虚しさと寂しさを感じた。
闇ギルドに属していたくせに、今さら光の中で生を得たいというのか。

自分が魔導士だったことを忘れかけたころ、世界がめまぐるしく戦いに巻き込まれた。
国中の魔導士がギルドの枠を超えて戦っていた。
アクノロギアというドラゴンと。
破壊の限りを尽くされた世界で、人々は傷つき疲弊し座り込んでいた。
その時『魔女の罪』の魔導士が現れた。
「国中の魔力を集めたいの!皆さん、力を貸してください!!」
そう言って生体リンク魔法をつないだ。
「メルディ!!」
そう叫んだけれど、名前の主には声は届かない。
美しい桃色の髪が疲れの色がにじんだ頬にかかっていた。
「皆さん、ありがとう!!」
メルディはそう叫んで次に人々の集まる場所へ移動した。

こんなふうに生体リンク魔法を使えるようになったのかと、取り残された男は目を見張った。
自分の知るメルディとは別人のようだった。
いや、想いを刃に替える信念の強さは変わっていない。
ただ魔法の使い方が違っていた。
復讐ではなく幸せのために。
個人ではなく国中の人々のために。

こんな形でしか魔導士としての力を使えない自分が情けなかった。

戦況は変わり、アクノロギアは敗れた。
人々は平和を取り戻した。
街が復興を遂げても、世界には闇があり、そこには悪事を働く者もいた。
相変わらず失われた古代魔法を手に入れたがる輩も後をたたなかった。
メルディが『魔女の罪』で新しい道を歩んでいるように、自分も新しい道を歩もうと決心した。
迷っていた道から、やっと本来の道へ。
だが男のいる世界は、自分の名前を知る者も、呼ぶ者もないままだった。
それならばと、男は名前を捨てた。
Lost Rusty rose.
そして自ら新しい名を名乗ることにした。
LRと。
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