storyX 『紅の螺旋』(連載中)5/22up
□第2章 枯れた薔薇
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第2章 枯れた薔薇
魔導士ギルド『妖精の尻尾』へ続く道の途中で、メルディは枯れた薔薇の花束が道に捨て置かれているのを見た。
正確には花束とも見えない、枯れた枝と葉のついた薔薇が数本固まって落ちていただけのものだったが。
誰かが捨てたのだろうか。
誰かが大切な人に贈ったものだろうか。
色の変わった花弁からは、それがどんなふうに色づいていたのかも伝わってこなかった。
ウルティアの時のアークを使えば、この薔薇の色も解き明かすことができたのか。
ラスティローズに具現化してもらえば、生き生きとした姿を目にすることができたのか。
もしもこの薔薇にも魂があったら、ナインハルトにそのヒストリアを具現化されたのか。
「くすっ」
メルディは自分がおかしなことを考えていると気づき、悲しそうに笑った。
エリックもジェラールもその自嘲めいた笑みに気づかないふりをしていた。
二人とも他人にずかずかと心の中へ分け入ってこられることの煩わしさを人一倍知っていたからだ。
魔導士は皆そうかもしれない。
否、中でも闇の魔法に触れたものに限っては。
「着いたら別行動だね」
「そうだな」
我に返ったメルディの言葉にエリックが応じた。
ジェラールは応えない。
メルディがジュビアを訪ねたところで、会えるとも限らない。
ジェラールにしても同じだ。
エリックにはおそらくキナナの心の声が聴こえているのだろう。
その隻眼は確信にあふれていた。
「いいなぁ」
エリックの目に気づいたメルディがつぶやいた。
「なんだ?お前に憧れを抱いている男の声でも聴かせてやった方がいいのか?」
「そんなの要らない」
「彼氏が欲しくて羨ましいって、言ってるんじゃないもん」
ではなんだと言いたげにエリックがメルディを振り返る。
「ジェラールもだけどさ、エリックのところも二人の絆が強そうなのがいいの」
「絆」
「そういうの築ける相手って、なかなかいないじゃない」
二人のに恋はそれぞれこれまでの長い道のりがある。
ある日突然出会って恋に落ちて・・・というよりも、長い年月をかけて育んできた愛という印象にメルディは惹かれた。