storyX 『紅の螺旋』(連載中)5/22up

□第1章 海岸線
3ページ/3ページ


「ジェラールはエルザに告白したの?」
唐突なメルディの言葉にジェラールは真っ赤になって立ち止まった。
エリックにも聴こえたいたはずだが、そのまますたすたと前を向いて歩き続けていた。
「なっ何を急に言いだすんだ」
「ごめーん。どうなのかなーって思っちゃって」
メルディがぺろっと舌を出した。
「言わなくてもわかることもあるが」
エリックが誰に言うでもなくつぶやいた。
「言葉で伝えた方がいいこともある」
「なるほどー。エリックはキナナさんにちゃんと伝えたんだね?」
そうだ、と言わんばかりにエリックがちらりとメルディを見た。

ジェラールは自分の想いはエルザには伝わっていると思っていた。
エルザもまた自分を想ってくれていることも分かっていた。
これまでは自分がエルザを幸せにする自信がなかったのだ。
だが。
自分の罪を受け入れて生きることを選んだ以上、エルザのそばにいたいと思うようになった。
エルザを護りたい、支えたいと。

「で、どうするの?」
メルディがふたたび問う。
「きちんと伝えるつもりだ」
「すごーい!ジェラール、がんばって!」
メルディが満面の笑みで励ました。
ジェラールはこの笑顔を見ると、いたたまれない気持ちになった。
ウルティアの言葉を借りれば『魔女の罪』の中でいちばんの被害者と言えるメルディ。
どのようにしてこんな笑顔を身につけたのだろう。

「泣いてばかりいる子どもだったの」
メルディが眠るとウルティアはよく昔話をした。
誰かに聞いて欲しかったのかもしれないし、自分の罪を忘れないためだったのかもしれない。
自分がどれほどメルディを愛おしく思っても、メルディのいちばん大切なものを奪ったのも自分だという苦しみ。
マスターハデスの説いた大魔法世界で、誰よりもウルティアはメルディと新しい人生をやり直したかったのだろう。
そしてそれには自分の過去を知る『悪魔の心臓』の仲間が邪魔だったことも計り知れた。
ウルの愛を知ってから、さらにウルティアは心の中でメルディに詫びたに違いない。
時のアークを使い、身を隠したウルティアは今もどこかでメルディの幸せを願って生きているのだろうか。
それは誰にもわからないことだった。

マグノリアにある『妖精の尻尾』へ向かう道から遠くの方に海岸線が見えた。
打ち寄せる波までは認められなかったが、繰り返す波が砂を洗っているのだろう。
まるで大地の呼吸のように、休みなく、よどみなく。
それは罪を忘れることなく歩き続ける魔導士たちの姿にも似ていた。


つづく


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ