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□舵之助の休日
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マグノリアの山々の紅葉も美しい秋が深まりつつあるその日、舵之助は久しぶりの非番だった。
非番だというのに、いつもどおりに額に鉢金を巻き、あさぎ色のだんだら羽織をはおって、腰には自慢の大小を差した。
どこへでかけるというのか。
剣精組の屯所では、隊士たちはすでにそれぞれの仕事にでかけていた。
そして、舵之助も少し遅れていつもの街の見廻りさながらにでかけていった。

れみのいる茶店が望める一角に来ると、舵之助の足が止まってしまった。
いつものように、長椅子に腰を下ろしてお茶を所望したあと、れみと話をするつもりでやってきたというのに。
実は根が真面目なこの男にとって、非番の自分がさも当然のように見廻りを気取るのは、れみをだましているような後ろめたい気持ちにとらわれてしまったのだった。
かといって、普段着で訪れるのも気恥しく、ついついいつもの剣精組の装束を身につけてしまったという次第であった。
腕を組み、街の一角で佇む舵之助に近づいてきた影が一つ。

「よぉ舵之助!お前ぇ今日は休みだろ?こんなとこで何やってんだ?」
「げ!夏之臣!」
聞き慣れた声に振り返ると、桜色の髪をして剣精組の装束に身を包んだ堂国夏之臣がにこにこして立っていた。
「な、なんでもねェ!」
「嘘つけ。誰か待ってんのか?」
「ち、違ェよ!」
夏之臣はひょいと舵之助の隣から顔を出すと
その視線の先をさぐった。
「ははぁん、あの娘だろ!?ホラ、金髪を頭の上で結んでる、胸のデカい娘!なるほどかわいいな〜」
「違う!」
「じゃあ、あっちだな!銀髪のショートヘアの娘だ!確かにあの娘もかわいいな〜」
「違うっつってンだろうがよ!」
「だって、他にかわいい娘いるかぁ?」
「お前ェ邪魔なンだよ!どっか行け!」
「別に教えてくれたっていいじゃねぇか!俺たち幼なじみだろ」
「だから、そんなンじゃねェんだって!」
こっそりと茶店を伺っていたはずの舵之助だったが、夏之臣とやりあっているうちに周囲からじろじろと見られていることに気づいた。
「あの、赤井様?」
居心地の悪さを感じていた舵之助と夏之臣が声のする方を振り向くと、れみが立っていた。
「!」
「おお!この娘か?」
「ばっ!何言ってやがんだ!」
「おお〜なるほど〜!」
「?」
小柄でかわいらしい青い髪のれみを一目見た夏之臣は、うんうんとうなづいてチラッと横目で舵之助を見た。
舵之助の顔がみるみると真っ赤になっていく。
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