story U 

□既望
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街の喧騒を逃れるように、街道の果てにある荒れた岩だらけの場所で、その日ガジルは夜を明かした。
こんなところで眠るのは久しぶりだった。
かつて、メタリカーナというドラゴンと暮らしていたのも、こんな場所だった。
あの時はいつもメタリカーナがいたから、何も感じなかったけれど。
今の自分はまるで野良犬のようだと、ガジルは一人自嘲を込めて笑った。
笑うと相手の拳で傷つけられた、乾いた唇の傷がふたたび裂けた。
自身の血をなめながら、血の味は鉄の味に似てやがる、とふと思う。
身体の傷も癒えないまま、ときどき湧き上がる悔しさと、
なぜかわからない人のぬくもりのような感覚が、何度も何度もガジルの胸の中をめぐっていた。
そして、それを感じるたびに今まで感じたことのない、
胸が締め付けられるような息苦しさと、頭の奥を突き刺すような鋭利な痛みを感じるのはなぜか、
ガジルにはまったくわからなかった。
同時にガジルは、初めて戦った自分と同じ滅竜魔導士のことが頭から離れなかった。

<ナツ・ドラグニル、とかいったな。
あの野郎、今度会ったらただじゃおかねェ>

そう悔しまぎれに、感情を奮い立たせてみるも、腹立たしさなど、実はないことに気づく。

「これでおあいこだから、仲直りしてやろーと思ったのに」
そう話すナツの桜色の髪の毛が、ガジルの脳裏に浮かんでくる。

<なんだよ!おあいこって!
子どものケンカじゃねェんだぞ!>

いや、子どものケンカだと言って、マスターマカロフは妖精の法律を放ったのだ。
術者が敵とみなしたものすべてが攻撃対象という超強力な魔法。

<子ども・・・
妖精の尻尾じゃ、魔導士はマスターの子どもだってェのか?>

ガジルは裂けた唇から流れる自分の血をなめながら、ずっと考え続けていた。
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