捧げもの (お話)

□3月14日
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設定:ザンクロウ高3、メルディ中1。ウルティアとアズマはメルディの両親。ブルーノートはザンクロウの父親。


街のあちらこちらで桜の蕾が膨らみ始めた。
雛祭りも終わり、頃は3月の半ば。

スティンガー家とミルコビッチ家は、お隣同士。
約20年前に開発されたニュータウンの一画を同時期に購入して以来、親しいつきあいをしてきた間柄だ。
スティンガー家に男の子が生まれ、その5年後にはミルコビッチ家に女の子が生まれた。
二人はまるで本当の兄妹のように育ち、双方の親も我が子のように二人に接してきた。
男の子の名前はザンクロウ、女の子の名前はメルディ。
10年前に突然病に倒れたザンクロウの母親が他界してからというもの、ミルコビッチ夫妻はスティンガー氏を支え、ザンクロウの面倒をみる機会も増えた。
この春、メルディは小学校を卒業し、4月からはザンクロウの高校と同じ敷地内にある中学へ通うことになっていた。


「よく似合うわよ、メルディ。ねぇ、あなた」
「ああ。ちょっとくるっと回ってみてくれないかね」
「こう?」
続くウッドデッキから差し込む光が暖かいリビングで、出来上がったばかりの制服に身を包んだメルディが両親の前で回ってみせた。
スカートが膨らんだ姿が、かわいらしい。
「ちょっとカメラを持ってこようかね。あ、ビデオもいるかな」
「あなた、それは入学式当日でいいんじゃない?」
「そうかね?でも今日は、メルディが初めて制服を着てみた記念ということで・・・」
妻のウルティアの制止にも耳をかさず、娘メルディを溺愛するアズマ。
当のメルディはというと。
「お父さん、写真は今日でなくてもいいよ。私、ちょっとザンクロウに見せに行ってくる」
と告げて、庭続きの隣家に向かった。
アズマが名残り惜しそうに愛娘を見送る姿に、ウルティアが呆れるような笑みを浮かべていた。

「ザンクロウ、いる〜?」
「ん〜? メルディか?」
庭に面した窓は開け放たれ、三月の半ばの陽気が待ちきれずに家の中まで入り込んでいた。
ザンクロウはテラスにほど近いリビングの一画に座って、携帯をいじっていた。
「何してるの?」
「スマホに変えたから、操作に慣れようと思って・・・」
手元からメルディに視線を移したザンクロウが、言葉を失った。

「似合う?」
「・・・」
「ねぇ、ザンクロウってば聞いてる?」

遠くの方でメルディの声がする。
おかしいな、メルディはオレっちの目の前にいるってのに。

「あ、ああ。すげぇじゃん。中学生みたいだっての」
「もう中学生だもん」
「そうか」

中学の制服着ただけで、ガキっぽさが消えたみたいだ。
本当によく似合っていると、ザンクロウもしみじみと、メルディを見つめた。

「そうだ。オレっちのおニューのスマホで写メ撮ってやるよ」
「ザンクロウってば、お父さんみたい」
「そうか?おじさんもおばさんも、喜んでたろ?」
「うん。ねぇ、中学入ったら、学校で会えるかな?」
「ん〜中学と高校は敷地は一緒だけど、あんまり接点ないぜ」
「なあんだ」
「心細いんだろ。誰かに意地悪されたら、オレっちに言えよ」
「大丈夫だよ」
「イヤ〜な先輩がいたら、オレっちがぶん殴ってやるっての」
「あはは、心配してくれてありがとう、ザンクロウ」
カシャ。
笑うメルディが、ザンクロウのスマホに収まる。
よし。

「へへっ、どういたしまして」

メルディの脳裏に、小学校に入学した当時のことが思い出された。
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