☆小説☆

□祈る指
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ED後捏造。




二人で還ってきてから、幾度目の春を迎えただろうか。

一年目は、中庭に植えられたホドの『サクラ』という花を見た。
まだ細い木にぽつりと薄桃色の花が咲いているだけだったが、あいつはひどく嬉しそうに笑っていた。
子供のように駆け回り、手を焼いたのを覚えている。

二年目は、すこし幹の太くなったサクラの花を、中庭に座って見た。
少しずつ増えていく花に、あいつはやっぱり嬉しそうに笑っていた。

三年目は、車椅子に座るあいつを、俺が中庭まで連れていってやった。
花吹雪とはまだいえないが、ひらひらと周りを舞う花びらに、あいつは笑っていた。

四年目は、あいつの部屋でサクラを見た。
ちゃんとあいつの部屋からでも見られるようにと植えたのだろう。
しかし、いかんせんサクラの大きさが足りなかった。
もう少し、もう少し大きくなっていてくれれば、もっと綺麗な景色が見れたのだろうに。
俺は酷く悔しくて、幹を蹴りたい気持ちを抑えた。
あいつはそんな俺の気持ちを察したのか、「いーよ、また、来年な」と泣きそうな声をしてわらった。
そんな顔をさせたかったんじゃない。






ルークの期限が迫っていることを、誰もが知っていた。






俺達は、二人で還ってきた。
しかし、ルークの身体は、本当の意味で…『元通り』になっていたのだ。

音素の乖離。
その定めに、逃れることは許されなかったのか。


俺は時間が経つ毎に、時々喚いて暴れたくなる。

決して泣かないあいつ。
笑ってばかりのあいつ。
ひどく不器用にしかあいつに触れられない、俺。


なんて、無力な、俺。


あいつが泣いて喚いてくれれば、と思う反面、きっと俺はどうしていいのかわからなくなるのだろう。
俺はあいつを救えるような立派な頭も、腕も、ことばも。
なにひとつ持っていないのだ。


だから、ただ、喚いて、誰かがルークを救うのを待っている。
そうすることしかできない俺は、ルークに嘘の笑いの仮面ばかりを突き付けて、苦しめているんだ。

俺が、おまえの笑顔がすきだと、そう言ったから、おまえはわらってくれているのだろう?

泣きたいときも、喚きたいときも、あるはずなのに。

なぁルーク、もう俺のためになんか笑わないでくれ。
どうか、どうか、おまえのこころはおまえのためだけに使ってくれ。




あいしている。
ルーク、
ルーク。




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