☆小説☆

□何も知らないのにこの手は
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「あー、ぅ」

陽の光を受けてきらきらと光る朱い髪。


……俺は、赤い色が大嫌いだ。


何も知らないのにこの手は



「ルーク坊ちゃま、ナイフはきちんと持って…」

仇を討つ為に入り込んだ敵の屋敷では、最も憎い相手の息子の世話をさせられている。

少し前までは、憎らしい程に聡くご立派でいらした『ルーク坊ちゃま』。
それが、突然誘拐され、発見された時には全ての記憶を失い赤子のようになって帰ってきた。

前までは世話係といえど全面的にルークを任せられていた訳ではない。
だが、記憶を失ったルークの世話は、全て俺に一任された。

体よく厄介事を押し付けられたという訳だ。

何が悲しくて敵の息子の教育などをしなければならないというのか。

「ぅー、うっ!」

「坊ちゃま、ナイフは投げてはいけませんよ」

苛々する。
何故。何故。
こうなってしまったのだろうか?

「さあ、もう一度」

「うー…」

赤は嫌いだ。





「…くそっ」

自室に戻ると、思わず舌打ちをした。
同室のペールは眉をひそめたが、敢えて何も咎めはしない。

「…お疲れですな」

「ああ…赤ん坊同然のやつを、俺一人で面倒見させられてるんだ。疲れもするさ」

「…でしょうな」

ペールは深く頷いて、それ以上は訊いて来なかった。

するとペールは、俺が寝そべっているベッドの横にある出窓に一輪挿しをそっと置いた。

「随分と懐かしいものが見つかりまして…この一輪だけだったのですが」

それに目をやると、そこには黄色と朱色のコントラストが美しい一輪の花。

「……『ガイラルディア』…か」

「ええ。キムラスカの土壌では上手く育たぬ花ですから」

俺は一輪だけのその花を、まるで眩しいものでも見るかのように目を細めて見た。
酷く懐かしい、だが同時に痛みすらも呼び起こす。

「姉上が、とても好きだった…」

「ガイラ……」

主の名を呼ぼうとしたその声は、忙しないノックの音で掻き消される。




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