(文)

□動けない
2ページ/2ページ

シャワーを浴び、部屋着に袖を通す。まだ起きる気配の無い弦一郎を気にしながら、クッションに体を埋めた。時計の秒針と、弦一郎の寝息が聞こえる部屋で本を開く。ページを捲る音が加わる静かな時。寝息が止んだ。
「……。……れんり?」
寝ぼけているのと酒のせいで呂律が回っていない。
「起きたのか、弦一郎」
弦一郎は、声を目指して這うようにこちらに寄ってきた。
「れんりー……」
とても眠たそうな顔で笑っていた。
「なんだ、弦一郎?」
甘えるように顔を近付ける弦一郎の頬に手を添える。
「遅かったれはないか!」
笑っていたかと思えば怒り出す。
「すまない」
そうかと思えば悲しい顔をする。
「……寂しかったのらろ」
そのまま俺の上に倒れ込んだ弦一郎は、小さな声で言うのだ。
「愛している……」
寝息が聞こえたのは直後だった。
「……俺もだよ」
そっと撫でた柔らかい髪が、温もりが心地よかった。
「さて……どうしたものか」
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ