(文)

□蓮華的付合方
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【夏】


 暑い日差しが降り注ぐテニスコート。ベンチに触れると、汗に交じりじわりと汗が伝わる。けれど頬から首筋へと伝わる汗は、妙に冷たく感じた。帽子を取り、タオルを頭に被せた。地面を見ると、足元に陽射しは無く影が伸びていた。影は近づき話しかける。
「大丈夫かい、真田?」
「幸村。……少し、休息をな」
幸村は隣へそっと腰を下ろす。
「幸村は、平気なのか?」
自宅療養中の幸村は、部活は出来ないまでも皆に会いにとテニスコートに顔を出していた。
「俺は平気だよ。ここへも車で来たんだ」
練習を見る幸村の目は、輝いて見えた。
「なぁ、真田。俺達は上を目指さなければならない」
風に揺れた髪も。
「けど、無理をしないと、約束してくれるかい?」
心も。
「それともう一つ。諦めない。頑張る」
病気と闘う幸村との。
「共に、な」
約束。
目が合った。それが少しくすぐったく思えたが、お互い拳を合わせた。
「それじゃあ、僕はみんなと話でもしてくるよ。邪魔をしてすまない」
幸村はそう言いながら腰を上げる。
「邪魔なものか。あまりはしゃぎ過ぎるなよ」
手を上げて去っていく姿は、日の光と重なり眩しく見えた。

また暫く俯いていた。目を閉じると、ボールの音と共に話声と、夏の音。風に乗って汗やコートの匂い。夏の匂いがした。その中に、違う匂いが一つ。覚えのある、優しい香り。目を開けると大地は赤く染まっていた。
「皆、帰ってしまったぞ」
声は、隣から聞こえた。
「蓮二……」
肩に掛かっていたジャージが落ちそうになり慌てて掴む。
「よく眠っていたぞ、弦一郎」
頭に被せていたタオルは、綺麗にたたまれ、蓮二との間に置かれていた。
「すまない……」
目を擦ると夕日が染みた。
「珍しいな。何をしても起きない弦一郎は」
「何か、したのか?」
柳は微笑する。反応を見て楽しんでいるようだった。
「幸村達が面白がって写真を撮っていたくらい。かな」
少し呆れた。だが、仁王や赤也にも写真を撮られたのだとしたらそれは後でどうにかしなければならないと思う。
「……。……蓮二は」
「俺か?」
蓮二も撮ったのか。など、聞けるはずが無かった。
「嫌。蓮二はずっと、俺が起きるのを待っていてくれたのか?」
「コートに一人だったら、お前が悲しむのでは無いかと思ってね」
「か、悲しむなど……!」
思いがけない言葉に慌てた。
「俺が待っていたかったんだ」
けれどそれは、直ぐに別の言葉へと移る。
「……何故だ?」
恐る恐る尋ねる。
「親友、だからな」
当たり前の言葉に、気を落とす。影が、濃くなっていく。
「嘘だ」
目を見開いた。
「愛して、いるから」
その目で、蓮二を見る。
「ずっと、好きだったよ」
蓮二は、こちらを見て笑っていた。
「な、何を馬鹿な」
それでも、信じられないその言葉に目を伏せる。握った手は、微かに震えた。その手を握り、蓮二は優しく、優しく笑う。
「冗談などでは無い。……真剣に」
愛している。
目が合った。話す言葉が見つからない。ゆっくりと顔を近づける蓮二に、思わず目を閉じる。額に温かく触れる。蓮二の手。
「顔が赤いが、熱はないようだな」
その手は頭に当てられ、二回叩くと蓮二は「帰ろう」と一言だけ囁いた。
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