(文)

□クリスマス
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北海道や東北では雪が降った。それはもう、一ヶ月程前の話になる。
そして今日。
関東にも雪が降る・・・筈もなく。かといって、澄んだ空に星が見える訳でもない。
ここは、ただ寒い都会の街だ。
けれど、違う風景がここにはあった。聖夜を迎えた街は賑わい、店や木に飾られた光が眩しく見えた。
約束は十九時。
一際目立つツリーの下で。
ポケットに手を入れ、マフラーに顔を埋める。溜め息の度に、それは白くなり目の前を霞める。
手を降って駆けてくる人は「お待たせ。冷たいね」と言いながら、頬に手袋をした手を添える。
そんな聖夜を横目で見て、こちらまで照れ臭くなるのを必死に隠した。
息で冷たくなったマフラーから顔を上げると、そこに彼は居た。
白いコートに、赤いマフラーをして。
「蓮二」
それはまるで、聖夜に降りてきた、あの・・・。
「待たせて悪かったな、弦一郎」
「い、いや」
思わず目を反らしたのは、赤くなった頬を隠すため。
「このツリーを一緒に見たかったんだよ」
言葉にツリーを見上げる。
大きなツリーは空に星を作っている様に見えた。一人で見上げた空とは、別の空だ。
「メリークリスマス。弦一郎」
地上に降りたサンタクロースは、優しい微笑みを俺にくれる。 
そんな、三年目のクリスマス。

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