(文)

□伝える思い
1ページ/5ページ

*柳*


夕方の教室には、陰が二つ。
部活に励む下級生の声が遠くに響いている。
窓から差し込む夕日から逃れる様に、日のあたらない場所に二人は立っていた。
「二人がくっつくのは良いんだけど、俺、どっちの事も好きだからな。手放したくないっていうか」
「知ってはいるが、幸村。その好きというのは……」
言葉を塞がれる。
甘い甘い口付けで。
音も何も聞こえなくなるような瞬間に、重い音が響く。それが心の中でした音なのか、室内に響いてる音なのか。
多分幸村は、全部分かっていたのだと思う。
閉じていた瞳が開いて、微かに動くのを感じたからだ。
「……弦一郎?」
解放させた口を動かす。自然に出た一つの言葉。
入口付近に置き去りにされた鞄に光景が浮かぶ。
いきなりさせた口付けを目撃され、有り得ない光景に鞄を落とす。そんな、可哀想な一人の……。
幸村は、その鞄からそっと視線を逸らす。
「帰ろう……」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ